第21話 お誕生日ケーキを作ろう!
セレンの家の玄関でいつもの如く待機するケル。ケルは耳をそばだてていると、パタパタと走ってこっちにやってくる音が聞こえた。
いつもより足音が大きく、そして速い。
バタンと勢いよく開かれる扉。
セレンが息を切らしながら目を輝かせていた。
「ただいま! ケルちゃん!」
「ウォン(おう、今日は早かったな)」
「えへへ、今日は急いで帰って来ちゃった!」
セレンはケルをぎゅっと抱きしめた後、スクールバッグの中身を入れ替える。
「今日をね! ずっとずっと楽しみにしてたの!」
ぽいぽいと教科書を取り出し、代わりにエプロンやふきん、ケーキの材料を詰め込んでいく。準備の最中もセレンは笑みが溢れ、ケーキの鼻歌を歌っていた。
「よし! それじゃあゾイさんの所に行こう! お誕生日ケーキを作りに!」
ゾイのケーキ屋にて。
ケルとルベロは閉店の看板が揺れる扉を退屈そうに見上げていた。
「ウォン(まぁ俺らは外で店番だよなぁ)」
「ワン! ワン!(良いじゃないか! ガム!)」
「ウォンウォン!(ガムばっかり噛んでねぇで亡霊が来てねぇか探せ!)」
ゾイのケーキ屋には例え見渡したとしても階段を見つける事は出来ないだろう。
何故なら隠された場所にあるのだから。
店内の一番奥まった所、お客さんが座る席からは全く見えない壁が入り口だ。
何の変哲も無いただの壁を押し開くと二階へと繋がる階段が現れる。
「隠し階段!!」
セレンは店の隠し扉に好奇心を掻き立てられて笑みを浮かべるものの、少し悲しげな表情を滲ませた。
「ルベロちゃんはお家に入れてあげてないんですか?」
「あぁ、雨風がなんかが有れば家の中に入れますよ。ただ……」
「ただ?」
「一階のキッチンもですが、二階の自宅も危険な物が多くてですね」
「そうなんですか?」
セレンはゾイの自宅をくるりと見渡す。
こじんまりとしているが、綺麗に片付けられた部屋だ。
危険な物など何ひとつ見つけられない。
「とっても綺麗なお部屋です!」
「ありがとう。でも部屋はあちこち触らないようにして下さいね。怪我をしてしまえば大変です」
「わ、わかりました!」
セレンはキッチン以外は触らないと心に決めた。
ゾイが怖いくらい真剣な表情だったのだ。
すぐにゾイの真剣な表情は和らぐ。
「それじゃあ準備を始めましょう」
セレンは可愛らしいエプロンを身につけてキッチンの前に立つ。
ゾイは紺色のエプロンを手慣れた手つきで着用する。
オーブンを事前に温めていたゾイは並べられたそれを見て驚く。
「ではまずは……おや?」
「ケーキの材料は持ってきました!」
セレンはいつも使っているスクールバッグから持ってきたケーキの材料を取り出していたのだ。
「これは……」
「おうちのキッチンがなおったら今度はケルちゃんとケーキを作ろうと思っているんです!」
セレンは照れくさそうに笑顔を浮かべていた。
「ケーキは毎年家族みんなで作っていたから……ちょっと遅れちゃうけど」
ケーキ屋の店内からセレンが外に出てくる。
店の外ではケルとルベロがひっくり返っていた。二匹とも動きは鈍い。
「ケルちゃんお待たせ! 良い子にしてた?」
「ウォ、ウォ……ン(いつも通り、たらふく食ってな……腹はいっぱいだ)」
「今日はねー、ゾイさんのお陰ですっごく美味しいケーキが作れたよ! 明日スクールから帰ったら一緒に食べてお祝いしよう!」
「ウォン?(俺も一緒にか?)」
セレンは首を傾げるケルを頭から撫で回す。
「家族でお祝いなんだよ! 楽しみだね!」
「ウォン……(家族……)」
家族。ケルにとっては突然の思いがけない単語だった。ケルにとっての家族はずっと一緒に居たルベロとロスだけだった。
常に一緒に居たから意識する事なんて全くと言って良い程なかった。
セレンの言葉を奇妙に感じたものの、それはケルにとって悪い気はしなかったのだった。
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