第16話 秘密
「……あれ、は……」
セレンの表情は固まったまま、まるで声を失ったかのような反応だ。
(何だ……? 何の話をしている……?)
セレンの様子を見たヴァスは眉を下げる。
「……さっきの質問は無かったことにして下さい。単なる顧客満足度アンケートのつもりでしたから」
「……」
「無理に聞こうとは思っていませんよ。今後ともご贔屓にして下さいね」
「……あの……私は——」
ヴァスはセレンの頭を撫でる。
「さて、どれにしますか? ここに置いてあるものはどれも頑丈でおすすめですよ」
ヴァスは優しい笑みをセレンに向けていた。
黒塗りの高級車の後ろでケルとセレンは会話している。
ケルとセレンはヴァシリアスの専属運転手に家まで送って貰っているのだ。
「さっき選んだ家具ね、先に車でお家に運んでくれたんだって!」
セレンはローテーブルを欲しがっていた。
ヴァスの屋敷で見つけたローテーブルは重厚であった為、セレンの家まで運搬をしてくれていたのだ。
「紅茶とお菓子美味しかったね!」
その後、ヴァスとセレンは紅茶を飲んで雑談をしていた。
ケルとロスは足元で水を飲みながら聞き耳を立てていたが、セレンのスクールでの勉学についての話をしているだけだった。
「……ケルちゃん?」
「グ、ル?(知り合い、だったのか?)」
「初めてのお家だったから疲れちゃった?」
「グル……(いや……)」
「私もあんなにおっきなお家に入ったの初めてだったよ! 凄かったね!」
「ウォン?(初めて?)」
「でも私、ヴァスさんのお家は初めてだけど……ヴァスさんには会った事があるのかも……」
「……ウォン(……随分と曖昧だな)」
(どのみち計画は失敗だった。ヴァスはセレンの家については何も聞かず、家具をプレゼントしただけだ)
(セレン家から盗まれた何かは分からずじまい、か)
ヴァスの屋敷からセレンの家はそう遠くはない。
ケルがモヤモヤと考えている間に目的地であった。
「到着しましたよ」
運転手は振り向き、セレンとケルに到着したことを告げた。
そして運転手は一度外に出た後、後部座席の扉に手を掛けようとしてその手を引っ込め、後ろを振り向いた。
セレンは運転手の視線の先を釣られて見る。
「どうしたんだろ? あ、テーブルを運んでくれるおじさんたちだ」
セレンが選んだのは樫の木で出来たローテーブルだ。
頑丈で重いそれをセレンの家に運んでくれると言っていた男性二人がセレンの家の前で顔色を悪くして座り込んでいたのだ。
運転手が座り込む彼らに近づき、目線を合わせて背をさする。
「——どうされました?」
「眩暈がしていて……吐き気が……」
「……急に寒くなってないか……?」
その場から動けない男性二人と運転手を見つめるセレン。
「おじさんたち大丈夫かな……っ、ケルちゃん!?」
ケルは車の扉を自力で開き、外へと飛び出した。
(チッ、気づくのが遅れちまった……!)
向かう先はセレンの家の中だ。
(やべぇ匂いがしやがる!)
セレンの家のリビングにて、三体の亡霊が樫の木のテーブルを囲んでいた。
輪郭が少しぼやけた男性亡霊が二人、興奮した様子で手を叩く。
残るひとりは人にしてはやけに巨大な体をしている亡霊だった。
しかしその姿は変容している事が分かる。
皮膚が樹皮で出来ており、樹液が滲み出てポタポタと落ちている。
『アニキ! これですぜ!』
『きっと何かあるに違いねぇ!』
『これが噂の少女が入手した物か。しかし樫の木とは……ふっ!』
ガチンッ、と鋭い噛み音が巨大亡霊に躱される。
「グルッ!(避けるか!)」
「例のイヌか。任せろ、俺が叩き潰してやる」
巨大な亡霊は無表情のまま、ケルへと向かい合った。
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