第30話 冥府へ

(チッ、やっぱり帰ってねぇか……!)


(家の中に何かヒントはねぇか!?)


 空っぽの家を駆け回るケル。


 キッチンの戸棚を全て開けた。


 ベットの裏を叩いて調べた。


 リビングの本棚をどかして裏をみて。


 本棚が倒れた。


 倒れた本棚から本がばら撒かれる。


 その中の一冊にケルは目が留まる。


(これは……?)


 セレンの日記だ。


 ケルは前足で押さえながら鼻でページを開いていく。


(……あちこち破れてんな)


 破られたページはセレンが病気になった直後あたりからだ。

 日付は丁度、去年あたりだろう。


(……まさか)


 セレンの誕生日のお祝いを思い出す。


 色んな事を試したのだと。

 そして色んな道具を集めて廃墟から冥府へ入り込んでしまったのだと。


 セレンはそう言っていた。


 ケルはシティ内をくまなく探し回った。

 セレンが向かいそうな場所やいつものルートの匂いも嗅いで回った。

 亡霊だって食いながら聞き込みをした。


(まさか、また行ってねぇだろうな……!?)


 また冥府に行ったのではないか。


 ケルの頭にそんな予感がした。


(あぁ、クソッ! 行くにしても理由がねぇだろ!?)


 ケルは再び外へと駆け出した。


 今度は廃墟のある場所へ。


 誰ひとりとして近寄らないシティの端へとケルは急いだ。












 シティの端の端。立ち入り禁止など見えもしないと、真っ暗な場所へケルは飛び込んで行く。

 廃墟だから周囲に明かりひとつ無い。


(こんな所に居るはずねぇよな……! セレン……!)


 ケルは廃墟を全て崩さんとばかりに駆け巡る。


 廃墟エリアの中に居た亡霊たちは問答無用で喰らい、ただセレンの痕跡を探す。


(居ねぇと思いてぇが……僅かに匂いやがる……)


(……こいつぁ……匂いを消した奴が居んな)


 空気に紛れて溶ける僅かな匂い。


 下水の強い匂いで鼻が曲がりそうになるが、その中にはセレンの匂いも混ざっていた。


(嫌な予感しかしねぇ……無事でいてくれよ……!)


 ケルはセレンの匂いだけを集中して駆け回っていると一軒のコンクリート造りの建物にたどり着いた。


(この辺に亡霊が多すぎんだろ)


 ケルはコンクリートの廃墟をチラリと見て周囲を見渡す。


(こっちに寄って来てねぇか……?)


 周囲に居る亡霊たちがケルの方に寄って来ていた。


(当たり臭ぇな)


 ケルはコンクリートの廃墟へと飛び込む。


 中に入ると亡霊たちが大量に待ち構えていた。


「ヴォン(セレンをどうした)」


 ケルは眉間に皺を深く刻み、亡霊たちを震えあがらせる。


 亡霊たちは形が比較的はっきりしている個体が多く、そして異様な姿の者たちも半数ほど存在していた。


 ケルが一歩、また一歩と歩みを進める。その度に亡霊たちが一斉に後ろへと下がり、恐怖の表情を強くする。


『ここまで嗅ぎつけるなんてっ!』

『何だよっ、何だこのイヌ!?』

『ととっ、とっ通すな! ボスに殺されるぞ!』


「グルルルル?(ボスってのがここに居てやがるんだな?)」


 亡霊たちがぴたりと動きを一斉に止めた。

 青い半透明の顔がさらに青くなっていく。


『お、おい不味いんじゃねぇ……?』

『誰だよ言った奴』

『早くっ、この黒イヌをのしちまえ!』


「ヴォン(そこをどけ)」


 明かりひとつない真っ暗な空間の中、噛み砕く音がすれば悲鳴と透明な何かが掻き消える。

 鋭い爪がコンクリートを切り裂く音で恐怖の声が木霊する。


『ボス! 駄目ですボ……うわぁぁ!?』

『何が起こっ……ぎゃーー!?』

『にっ、逃げ……ぐぎゃあ!?』


 そうしてしばらく騒ぎが続き、コンクリートの建物の中は一匹の息づかいのみとなった。


(セレンの匂い……あった)


 ケルは静かな廃墟でセレンの匂いを辿る。


 コンクリート建ての全ての階層に人影ひとつ、物ひとつ無い。


 けれどケルは見つけた。


 ケルはコンクリートの建物の4階外付けの階段に辿り着く。

 そこには鉢植えが置かれているものの、植物は生えておらず、土だけが入っていた。


 最近、土を掘り返したような跡が残る鉢植えだった。

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トリプルわんこ=ケルベロス 蟹味噌ガロン @kanimiso-gallon

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