第28話 ボス
シティの中には、心霊スポットでとびっきり有名な場所がある。
シティの端の端の方で薄気味悪さを放ち、古びたロープで建物ごとまとめて区切られている。そんな場所だから誰も近づきやしない。
ロープで仕切られた向こう側には今にも壊れそうな建物が立ち並んでいる。人は住んでおらず、放置されているようだ。
そんな見捨てられた区画には大きな館が存在している。
そこでは人ならざる者たちがたむろしていた。
ある部屋で、豪奢な椅子に座る巨大な亡霊と彼に報告する小柄な亡霊のふたりの亡霊がいた。
小柄な亡霊は人型の男性であり、セレンの家で盗み聞きをしていた亡霊だ。
輪郭がボケていて表情は伺えないが、焦っているように透明な体が揺れていた。
『聞いて来た内容は以上ですぜ、ボス! 噂はガセだったみたいですが、どうしやすか?』
『それヲ聞いた奴は他に居るか?』
ボスと呼ばれた大柄な亡霊はどっしりと座り込んでいる。
彼は目がくり抜かれておりぽっかりと穴が空いていた。
更には身体中に大量の弾薬とナイフ、斧が刺さっており、腕は銃と一体化してしまっている。
大柄な亡霊はどこを見ているのか全く分からない目を小柄な亡霊へと向けた。
小柄な亡霊は背筋をピンと伸ばして嬉しそうに返答をした。
『いえ、居ませんガッ……!?』
『……そうか、ご苦労だった』
その直後だ。
ダダダダダダ、と室内でに銃声が響きわたる。
報告する亡霊からの返事を聞くや否や、大柄な亡霊は銃で小柄な亡霊を蜂の巣にしていたのだ。
小柄な亡霊は銃で撃たれ続け、ふわりと空気と共に溶けていく。
大柄な亡霊は肩を回して薬莢を体から外して落としていった。
この部屋には大柄な亡霊だけとなった。
『このまま生き返る事が出来ないって? はっ……そんな眉唾物ヲ信じるのは何も考えてねぇ馬鹿どもだけだ。お前みてぇな、な』
亡霊のボスは椅子をくるりと反転させて外を眺める。
割れた窓の向こうには廃墟が広がり、その先にはシティがある。
『俺はこの透けたままで暴れる予定だったが……』
ボスは先ほど聞いた話を思い返す。
セレンとかいう小さな少女が夜中に浮いているという話。これは幽体離脱している可能性があると踏んでいた。
そして真夜中にシティを徘徊する自分自身を見ているという話。
これは少女の体の中に別の亡霊が入り込んで歩き回っている、その可能性が高い。
ボスはニヤリと邪悪な笑みを浮かべた。
『噂のガキ……憑依して……そのまま乗っ取れるかもしれねぇな』
小鳥が囀る気持ちのいい朝だ。
セレンはシリアルを食べながらニコニコ顔でケルに話しかける。
「昨日はお祝い楽しかったね! あ、もう行かないと……! ケルちゃん、行ってきます!」
「ウォン(おう気をつけろよ)」
昨日はセレンの誕生日だった。ケルはセレンと共にお祝いをして、仲良くケーキを半分こにして食べたのだ。
セレン手作りのケーキはさっぱりとしていてケルとしては非常に好みの味だった。
時計を見て焦ったセレンは急いでシリアルをかきこみ、スクールバッグを持って飛び出して行った。
(スクールは今日で終わりって言ってたな。明日から家にセレンがずっと居るって事か)
セレンが長期で家に居る。
それでケルには気にしている事があった。
(毎日のシティ内パトロールは難しくなるか)
ケルはセレンがスクールに行っている間だけシティ内を隠れてパトロールしているのだ。
(でもセレンは亡霊を見えてるなら気にする必要はねぇか)
ケルが亡霊を喰っている事をセレンは全て見ていたという事なのだろう。
(……今日大量に食い尽くせばいいか)
セレンが寝ている間にパトロールするかどうかと、今後の事を悩みながらケルはシティへと繰り出したのだった。
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