第13話 亡霊の家、再び!?

 ロスと一緒にいた人間、ヴァシリアスはどんな人物なのかをケルは聞いていた。


 ヴァシリアスを観察したロスによると……。


 曰く、ヴァシリアスは仕事中は部屋に引きこもっている。

 (それは知らない)


 曰く、ヴァシリアスの家には大量の監視カメラと入れない部屋が幾つもある。

 (……それも……知らん)


 曰く、ヴァシリアスはロスの事が大好きだ。

 (それは知っている!!)


 まとめると、ヴァシリアスは……ヴァスは……。


(い、イマイチどんな奴なのか分かんねぇ……)


 ケルは肩を落とした。


「ケルちゃんどうしたのー?」

「グ、グル(な、何でもない)」

「気分を上げる時はね! 歌を歌うんだよ!」

「グルゥ(歌か)」

「おいしい〜ケーキ〜優しい〜お味〜……」


(ロスに聞いても人物像を碌につかめなかった)


「オーブン温め〜ボウルを用意〜……」


(ただロスが好きなだけの人間ってのはあるものの、若干違ぇ気がすんだよなァ)


「お米をまぜまぜ〜お粉をまぜまぜ〜……」


(セレンやロスに危害を加えるような人間じゃぁなさそうだ。俺の鼻がそういってる)


「お水をぎゅぎゅ〜ヨーグルト〜……」


(で、あれば俺から何も言う事は無い)


「お芋〜お芋〜……」


(今日はいい運動になった。帰ってゆっくり休むと……し……よう……眠いな……疲れたか……)


「綺麗に綺麗に〜飾り付け〜! あ、ケルちゃん! もうお家が見えてきたよ! あそこあそこ!」

「ウォ……(な……)」


 とても小さく見にくいだろうがセレンの家が見えた。


 しかし遠目からでも分かる。


 家から亡霊がわんさか溢れていた。


「ウォォン!?(なんじゃこりゃあ!?)」

「!? ケ、ケルちゃん落ち着いて!」


 ケルは走り出した。

 その姿に疲れた様子は一切見られない。


(セレンが家に着く前に齧って追い払う……!)


 初めて家を見た時も亡霊たちがどんちゃん騒ぎをしていた。

 けれど今回はその時よりも数が多い。


『ヒッ! バレたぞ! 早く知らせないとっ、オォー!?』

「グルルッ!(監視されてたか!)」


 すれ違いざまに亡霊を齧る。


 走る速度は落ちる事などない。

 むしろ加速していた。


「グルルッ、ウオォォォォォォォン!!」

(テメェら、覚悟は良いかぁぁぁぁ!!)


 ケルは割れた窓から突っ込み、亡霊たちに齧り付き、ついでに薙ぎ払う。


『おいアイツは知らせに来てねぇ、ズヮー!?』

「グルッ!(喰ったに決まってんだろ!)」


『ドッグランで疲れてる筈じゃ、ワァー!?』

「グルルッ!(んなもん朝飯前だ!)」


『ボスに言われた手がかりなんてねぇじゃっ、ウゴフッ!?』

「グルゥ?(あん?)」


 ケルは食いちぎりかけた亡霊を口からパッと離した。


『み、見逃してくれるっ、ヘブシ!?』

「グル(な訳あるか)」


 ケルは前脚で亡霊を床に押さえつける。


 そして亡霊の目の前で鋭い牙を剥き出しにした。


「グル。グルル? ガルルル?(答えろ。ボスってのは誰だ? 手がかりってのは何だ?)」

『そんなっ、言えるわけが……』


 ケルは剥き出しの牙をガチガチと鳴らして見せた。


『ひぃぃぃぃぃ! 言います言います! 言わせてください!』

「ウォン?(ボスってのは?)」

『ボスは俺らのボスで——ヒィッ! め、めめめ冥府からの脱出を企てた頭っす! 俺は末端だから詳しくは知りません!!』


 ケルが亡霊を軽く齧っただけで話がスムーズになった。


「ウォン?(何を探している?)」

『生き返る方法っす!』

「グル、グルル(んなもん、ここにある訳ねぇだろ)」

『でも有名な噂っすよ——この家の少女が元亡霊だったって噂』

「グ……ル……?(う……ん……?)」


 ケルにとって、目の前の亡霊が嘘をついている風には見えなかった。

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