第39話 異形
「俺ヲ無視シテソイツノ相手トハ、余裕ダナァ、オイ!!」
私の頭上から辿々しい声が響いた。
「オイ、聖騎士……オ前カラ見テ右側後方ニ転ガッテル、ローブヲ着テイルヒ弱野郎ヲ連レテ逃ゲロ……サモナケレバ今ココデオ前ヲ殺ス……!!」
頭上から聞こえてくる声と共に背に吹きつけてくる強烈な鬼気に私は逃げるように立ち上がりながら身体を翻し、石畳を蹴る。
言われた通りの方向にローブを着た男がその身に矢を受けて横たわっている。
聖騎士、帝国兵、そして謎の男達の屍を踏み越えてたどり着いた私は彼の上半身をを抱き起こす。
矢の当たり所は正直言って悪い……
(これは……助からないかも)
そんな思考が過る中、目の端に映った異形に気付きそちらに視線をやる。
「なんなのよ、あれ……」
私は思わず動きを止めて呟いた。
目に入ってきたのは、馬車の荷台を跨いだ蟷螂のような存在だった。
見上げる程もある身体中に縫い目のある青白い巨躯の怪物だ。
両腕は鎌状で、身体もそのまま巨大な蟷螂に見える。
しかし顔は大きな蜥蜴らしき頭がついていて、口にはビッシリと尖った歯が並んでいる。
さらに身体の後ろには蠍の尾までついている始末だ。
悪夢にでも出て来そうな醜怪なフォルムと、その体から撒き散らされる妙な薬品の臭いに私は軽く吐き気を催す。
何本かの矢が身体に刺さっているものの、怪物は全く意に介していないらしかった。
怪物が地面から引き抜いた長い腕を振り上げて……鎌をこちらに向けて薙ぎ払う。
唸りをあげてそれは高速で私の頭のすぐ上を通り過ぎていき、直後に凄まじい激突音が鳴り響く。
視線を巡らせると、そこにはいつの間にか迫って来ていた数人の男達が強烈な一撃を受けて吹き飛ばされ宙を舞う光景があった。
彼らは近くの家の壁を突き抜け暗がりに姿を消した。
おそらく生きてはいないだろう。
この力なら視界の端に映る鉄の柩の蓋も簡単に吹き飛ばせただろう。
「トットト行ケッ!!」
私の思考に怪物の声が割り入る。
我に帰った私は邪魔な盾を払い捨てて意外にも軽いローブの男をどうにか抱えて走り出す。
鳴り響く戦いの音を背に、私はその場をなんとか離れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます