レインフォルト

御蛇村 喬

第1話 嵐の夜

 広がるのは無明とも思える程に深い闇。


 聞こえるのは打ち付ける雨音


 吹き荒ぶ風の唸り


 そして時折響く遠雷


 嵐の夜はまだ長く続くようだった。


 唐突に閃いた稲光が窓枠を照らし出し、間を置かず凄まじい雷鳴が響きわたる。


 まるで神が怒りと共に戦鎚を撃ち下ろしたかのような轟音と重なるようにして扉が破壊される。


 屋内に風雨と共にいくつもの光球が入り込んできて、広間らしき空間を照らし出した。


 それに続いて金属音を撒き散らして鎧を纏った物々しい集団が押し入ってくる、どのような道程を来たのか、その誰もが血と泥に塗れている。


 漸く雷鳴の余韻が過ぎ去った頃、彼等は傷んでいる身体のことも忘れてただ立ち尽くしていた。


 その目の前に広がるその光景は……血の紅に塗れていた。


 床はもちろん居並ぶ長椅子や壁の至る所に血と、人間の一部であったであろう肉の塊が散乱している。


 その先には照らされてなお深い闇がその身を横たえている。


 その凄惨な光景と広間に籠っていた異様な臭気に当てられ、一部の者達はたまらず膝をつき胃の内容物を吐瀉した。


「……我々は聖騎士団だ! 誰かいるかっ!?」


 闇の奥に向けて一人の平静を保った騎士が呼びかける。


「……お待ちしておりましたよ、この嵐と歩く死者の群の中、ご足労に感謝致します、聖騎士団の皆さん」


 平静で慇懃な響きを持ってその応えは澱のような闇の底から返ってきた。


 声の主がゆっくりと歩み出て立ち止まる。


 照らし出されたその姿は、辺り一帯と同様に夥しい量の血で染め上げられていた。


 聖騎士団の全員が息を呑む。


 その姿も異様だが、普通の人間がこの場に長く居て正気を保てるとは思えなかった。


 しかし、その言葉遣いや物腰にそぐわない農夫のような格好の男は静謐な視線を騎士達に向けたまま僅かに笑みを見せる。


 血に塗れたその表情に狂気は見て取れない……


 居並ぶ騎士達は先程まで嘔吐していた者達も含め内心戦慄しつつ戦闘態勢を取る。


「私の名はレインフォルト=アーデルハイム、医師をさせて頂いております……そして私が今回の件の首謀者です……改めて聖騎士団の皆さんを歓迎致しましょう」


男は名乗り平然とその罪を打ち明けた。

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