第4話 同僚
「動くな」
男の声音が私の行動を制する。
私は目だけを動かし首筋に剣が当てがわれているという自身の状況を確認する。
しかし、この声音は……
静かに首筋の冷たい感触が消える。
「クレアちゃん、任務中だぜ、ちょっと気を抜きすぎ」
その言葉を聞きながら私は体を素早く反転させつつ床を蹴り、視界に入った見慣れた男の顔めがけて軽く跳び上がり握り込んだ拳を叩きつける。
男は声を上げることもできずよろめいてへたり込み殴られた顔を押さえる。
「レディにそんなもの突きつけるとかどういう神経してるの……ハースト?」
私は男、ハーストを睥睨しつつ指の関節を鳴らす。
「痛つつ……いや、レディは人を殴ったりしな」
「何か言った?」
言い終わる前に、握り込んだ拳をにこやかな笑みと共に誇示する私の言葉にハーストは顔を押さえたまま一度押し黙り
「……いえ、何も……大変失礼いたしました……」
「よろしい」
私の言葉にハーストはため息をつきながら立ち上がりまだ痛そうにはしているが、顔を押さえている手をのける。
露わになったのは金髪碧眼に甘いマスク……上背もかなりのもので、私の体格だとジャンプしないと顔に拳をクリーンヒットさせられない。
さらに聖騎士の地位まで揃っているときているから、彼に熱を上げる女性は数多いる。
性格は軽薄で少しキザだが、不思議と彼が浮き名を流しているという話しは聞かない。
こういう男のことが私は嫌いだが、どこか憎めない雰囲気がある不思議な男だ。
「しかし、こんなとこで何してんですか? 正直言って居心地のいい場所でもないし、他の連中は街の外でサボってますよ、小隊長殿も含めてね」
「あなたは、ここで何が起こったんだと思う?」
私はハーストに問いを返す
「やっぱり、クレアお嬢様はそういうことに興味持っちゃいますか……」
彼は呟きながら面倒そうに頭を掻き言葉を続ける。
「団長殿も小隊長殿も言ってたでしょ、疫病でこの街は滅んだってね」
「嘘ね」
ハーストの騎士として模範的な回答を私は一言の下に切り捨てた。
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