第8話 麗人
私達は馬車から降りて門番二人と壁と広大な庭園越しに聳え立つ屋敷を前に立っていた。
「流石は王国時代からの最古参にして屈指の大貴族ヴァロワレアン公爵家ってとこなんですかね……別邸でこれですかい……」
ハーストは驚きを越えて半ば呆れているようで素が出ている。
「現当主が枢機卿になってからは本宅のようなものだ」
カルロス団長はそう言うものの、正直上流貴族として育った私でさえ少し気後れしている。
「聖騎士団長のカルロス=マクシミリアンだ、ヴァロワレアン卿に会いにきたのだが」
「お話しは伺っております、お入りください」
門番がカルロスの呼びかけに答え、庭園入り口の門を開ける。
「そう構えずとも現当主は意外とフランクな方だ、よほどの失礼が無い限りは流してくれるから心配するな、行くぞ」
ハーストに声をかけて背を叩き、歩き始めるカルロスに私とハーストは続いた。
広い庭園には季節の花が咲き乱れ、それ以外の草花も手入れが行き届いている。
庭園内に幾つか建物が立っており、訳の分からない建物もあるが、庭師の詰め所や馬房らしき建物も見てとれた。
まるで皇帝の所有する庭園だ……というか公爵家は皇家に近く、皇家に世継ぎが出来なかった場合には公爵家から皇帝を選出することになっている。
そんな中、ニ人の女性? が花を愛でているのが目に入る。
一人は分かりやすく侍女なのだが、疑問符がついたのはもう1人の着ている服が男性の着る服だったからだ……どう見てもその顔立ちや体格は女性のそれだ。
その男装の麗人に私は見入ってしまう。
雪花石膏か、はたまた遥か東方で作られると聞く白磁を思わせるほどに白く透明感のある肌に深く青い瞳、それらを縁取る金糸のような髪と長い睫毛……顔立ちは整い、僅かに笑みを湛えた唇は薔薇の花弁を思わせる鮮やかな紅……
花に添えている指は細く繊細で、その優雅な所作は優しげだ。
この人物の周囲では、美しさを競って咲き乱れる花々さえ引き立て役にしか思えない。
違和感があるのはやはり瑠璃の色をした男物の服を着ていることだ。
息を呑むような美しさのその人物はこちらを見て蕾が花開くように微笑みを笑みに変え
「やぁ、カルロス……久しぶりだね、ここで立ち話もいいが、とりあえず屋敷に入ろうか」
高く涼やかな声音でその人は団長に声をかけた。
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