第7話 馬車に揺られて

 翌日、四頭立ての馬車に騎士団長と私……そしてなぜかハーストが揺られていた。


 全員鎧ではなく礼装を纏っている。


 今日会う相手は無骨な鎧がお気に召さないとのことだ。


 団長は無論だが、ハーストも意外にも燕尾服を着慣れているようだった、様になっている。


「流石ですね、よくお似合いです……いつもはむさ苦しい馬車の中に花が咲いたようです」


「……ありがとうございます」


 騎士団長カルロスのおべっかに私は目をあわせず短く礼意を述べる。


 結局嫌いなドレスを着ることになってしまった。


 窮屈な上にヒラヒラして動き難いことこの上ない……


 コルセットを発明した人間は女性を絞め上げる狂った趣味嗜好でもあったのではないかと疑ってしまう程度に私はこの格好が嫌いだ……


 鎧が良いのかと聞かれると正直鎧も嫌いだが。


 さらにこんな姿を見られたくない奴もここにはいる。


 ハーストがだらしない笑みを浮かべてこちらを見てくるのをどうにか無視しつつ、格子のついた豪奢な窓から流れていく景色に目をやる。


 聖都の新市街地から少し離れた場所を馬車はゆっくり進んでいく。

 聖騎士団の印章である"盾と剣"がこれ見よがしに随所にあしらわれた仰々しい馬車だ。


 道は平されていて、馬車の揺れもさほどではない。


 こういった場所に居を構えるのは有力貴族の別邸であることが多い。


 いつもは街中で生活し、時に喧騒から逃れるためにこういった場所に別邸を構えるか、または人に言えないことをするか……用途は様々だ。


 私は風景を見つつ昔に思いを馳せる。


 どうせなら馬車ではなく馬の鞍に乗りたかった。


 子供の頃は父上の狩りについて行き、自ら馬を駆り草原を走ったものだった。


 あの高い視界、風を切る感覚、全身に伝わってくる躍動する馬の力強さ……


 久々に馬に乗りたい……


 そんなことを考えているうちに、目的地らしき"屋敷"が見えてきた。


 思っていたより遥かに規模の大きいその屋敷に私は顔を顰める。


「見えてきましたね……あれが我々聖騎士団を管轄するヴァロワレアン枢機卿の屋敷です」

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