第17話 訓練
資料保管棟で調べ物をした翌日、全体訓練があるとの連絡を受けて私は鎧を着込み聖騎士団の訓練棟に来て他団員と共に整列していた。
テレサ=ワーテルスのことは気になってはいるが、こればかりは仕方がない。
今回は以前の任務とは違い兜を被っているため重いし視界も狭いのが少々鬱陶しい。
やがて、聖騎士団長のカルロスが現れ、私達と向き合って立ち止まる。
「剣礼‼︎」
号令が飛び、私は忙しく剣を抜いて持ち手を胸の中央辺りに持っていき、刃先を真上にする形で掲げ、さらに握りを隠すように大盾を構える。
"剣礼"……聖騎士団の正式な礼の所作だ。
聖騎士団の印章である"盾と剣"はこの剣礼を意匠としたものであり、"決して剣を先に揮うことはない"という意味がある。
「今日は非番の者も居たと思うが、ご苦労だった、突然の招集に応じここに集まった団員に感謝する……」
団長のカルロスが話しを始める。
最初のうちはある程度聞けるが、そのうち話しを聞く余裕はなくなる。
剣と盾を持った状態でこの体勢を取り続けるのはかなり大変だ。
少しの間カルロスは話し続けたが、途中からは正に地獄と化す。
「……総員、休んで良い」
カルロスの言葉に剣を逆手に持ち替え、石床に剣先を置き、両手で剣の柄を持つと、盾の重量も剣が支えてくれるためかなり楽になる。
思わず安堵の声が出てしまいそうになるのを私はどうにか抑える。
「我々の職務は剣礼に始まり剣礼に終わると言ってもいい……皆、鍛錬を怠らぬよう……では、訓練を始めてくれ」
「別れ!」
また号令が飛び、盾を一度頭上に掲げた後、団員達は散らばっていく。
「クレア=ブランフォード殿とお見受けする、一度お手合わせ願えますかな」
見知らぬ団員から声をかけられる。
当たり前だが大柄だ。
貴族で編成されているとはいえ、先程の剣礼のようなことに耐えなければならないため、聖騎士団員になるには体力に優れているのが第一条件だ。
兜を被っているため顔や表情を窺うことはできない。
「お受け致します」
私は応えると共に剣礼をし、相手もそれに倣う。
『いざ!』
私と相手の声が重なると共に私は全力で地面を蹴る。
盾と盾がぶつかる鈍い金属音が響き、私は軽く跳ね飛ばされる。
どうにか着地と共に跳んで相手と距離を取ることに成功するも体勢は苦しい。
そこに相手は容赦なく距離を詰めてきて振り上げた剣を撃ち下ろす。
私はそれをどうにか盾で防ぎ、押し返そうとするも、体勢が十分ではないため状況が拮抗してしまう。
相手が不意に剣を引き、私の体勢が崩れたところに盾での打撃が襲う。
私はそれに反応してどうにか盾を翳す。
盾越しとはいえ強烈な衝撃と圧力に私は押されて尻餅をついてしまう。
次の瞬間、私の目の前に剣の切先があった。
「勝負あり……ですね」
相手は剣を引いて手を差し伸べてくる。
私は悔しさに唇を噛みながらもその手を取り、立ち上がる。
「噂通り大した反応力と敏捷性だ……これだけ劣勢に立たされ続けても浮足立たないのも素晴らしい……ただ、力が無いのが惜しい……そう思える程です……また立ち会いましょう」
そう言葉を残して相手は去っていく。
(完敗だった……)
私は腕が痺れて少しの間あまり動けそうになかったため壁に背をもたれて辺りを見る。
そこかしこで盾と盾、剣と盾、剣と剣がぶつかり合う音が響いている。
これが聖騎士の戦い方"シールドチャージ"だ。
剣礼という体勢が基本となる聖騎士団はまず盾を構えての体当たりから闘いの火蓋を切る。
聖騎士団という名ではあるが、洗練されているとは言い難い非常に無骨な戦い方だ。
これは私にとって非常に不利なスタイルだ。
体格差で最初のぶつかり合いで必ず負ける。
そして先程のように体勢を崩したところに畳み掛けられてしまう。
私は一つため息をついた。
普通の剣術ならば私はそこいらの男に負けることはない。
しかし、ここに来てからこのスタイルで勝てた試しがない。
ここが私の居場所ではないことを痛感させられる。
私は一人訓練が終わるまで独り項垂れていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます