第14話 捜査

 ハーストは書架の前で立ったまま器用に寝ていた。


 微かに鼾までかいている。


 私は持っているスクロールでハーストの頭を背後から軽く叩くと、飛び上がる勢いで彼は覚醒して、何事かと辺りを見回す。


「お、は、よ、う、ご、ざ、い、ま、す……真面目にやって?」


 私は凄みをひと匙加えた優しい笑みをハーストに向けつつ呼びかける。


「す、すみませんでした……お嬢様……」


 ハーストは振り向いて何故か引きつった笑みを浮かべつつも、どうにか軽口を叩く。


「……ハァ……しっかし、せっかくの非番をこんな色気の無い場所で資料との睨めっこに費やす羽目になるとはね……」


 ハーストはぼやきつつ微かに黴の臭いが漂う中、静かに立ち並ぶ書棚達を見回してため息を吐き


「……今からでも俺とのデートにプラン変更しません?」


「却下」


 間を置かず返した私の返事にハーストは大袈裟に肩を落とし項垂れる。


「いいから、今から8〜20年程前の聖騎士団員名簿探して取って来て、私は地図調べてるから」


 私は小脇に何本か巻いたスクロールを抱えて踵を返し歩き始める。


 程なく目についた机の上にスクロールを置き、その内の一つを紐解くと、当たり前だが革の匂いと、少しの黴臭さが鼻をついた。


 ここは聖騎士団資料保管棟、私の要望で特別に解放してもらっている。


 ハーストを連れて来ているのは複雑な旧市街地にあるこの場所には今の私だけで辿り着けないため、仕方なく道案内兼小間使いとして使うために宿舎の部屋に押し入り、非番をいいことに惰眠を貪っていたところを無理矢理叩き起こして同伴させてあげている。


 私のような素晴らしいレディのお誘いを受けられたのだから彼もさぞ光栄なことだろう。


 という訳で、聖都に来てから日の浅い私は特に複雑な旧市街の構造や、聖騎士団の歴史を知りたいからここに来ている。


 ーーーーと、いうのが建前になる。


 そう、先日の廃墟と化した街のことを調べに来たのだ。


 あそこでは何かとんでもないことがあったはずなのだ。


 しかし、その頃私が幼かったとはいえ教区の街一つが無くなるような事件があったという話は耳に入って来た記憶がない。


 分からないことは調べる、当然のことだ。


 私は知的好奇心に胸踊らせながら羊皮紙に載せられた色褪せ始めたインクが描き出す図形に目を這わせる。


 今見ているのは8年程前の地図だ。


 私の記憶から逆算して廃墟の距離を割り出し、その辺りを見るがそこには何も無かった。


 私は次々にスクロールを紐解き、年数を遡っていく。


 そして、13年前の地図を開き目を通していてあることに気づいた。

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