第35話 強襲
廃墟となった街を馬車は進んで行く。
最初に訪れた時と何ら変わらない光景……
しかし私は周囲の建物から何かの気配を感じて妙に気になっていた。
そんな中進んでいくと、街の中心らしき場所に鎧を着た一団が待っていた。
あの鎧は見覚えがある……帝国騎士団のそれだ。
全員完全武装している。
彼らを前にして馬車は漸く止まり、私達も歩みを止めた。
「待っていたぞ聖騎士団の諸君、"約束の物"は荷台のそれか……」
帝国騎士の一人が呼びかけと共に何かをこちらに翳すと、それは淡く光を放った。
「……間違いないようだな……ご苦労だった、それを引き渡し願おう」
その言葉を合図に帝国の騎士達がこちらへと歩み寄ってくる。
私達は任務の終わりを察して下がろうとする。
しかしその時、御者が妙な動きを見せた。
太腿辺りから細く鋭い針のついた筒を取り出して躊躇なく自らの首筋に針を突き刺し、針と逆側の筒の端を親指で押し込む。
さらに、その間に空いた手を伸ばして御者台に隠されていた剣を引き抜く。
漆黒の緩やかに曲がった刀身が怪しく陽光を反射する。
帝国騎士達が驚きながらも剣を鞘から引き抜こうとしたその時、御者は針を首から引き抜いて筒を投げ捨てながら人間離れした動きで御者台を蹴って馬の頭上を飛び越え、着地と同時に凄まじい疾さで駆けて帝国騎士との間合いを一瞬で詰めて刃を振るう。
先頭を行く帝国騎士の首筋辺りをその刃は撫でる様に通り過ぎ……少し遅れて夥しい量の血が兜と鎧の隙間から吹き出した。
場の空気が凍る。
ゆっくりと鮮血を撒き散らしながら倒れゆく帝国騎士と返り血を平然として浴びながら立つ御者の姿を場の全員がただ見ていた。
そんな中、私の耳に上方から幾重にも重なった風切り音が届く。
見上げると、蒼穹に弧を描いて此方へと飛来する夥しい数の矢が目に入った。
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