第33話 鉄の柩
早朝……いや、深夜というべきだろうか。
街はまだ夜の闇に沈み眠りについている。
私は昨日の夜に突然聖騎士団の伝令から任務の報せを唐突に受け、隊舎に来て忙しく鎧を着て待機していた。
他にも十数人程団員達が集まっている。
どうやらいずれも有力貴族の出身者のようだった。
「……失礼、貴女は今回の任務について何かを知っておられますか?」
1人の団員が話しかけてくる。
「護衛任務……としか聞いていません……」
私は正直に答える。
「私はある程度長く聖騎士団員をしていますが、こんなことは初めてだ……」
彼は兜を付けているため表情を窺えないが、声に怪訝な色を滲ませて辺りに視線を巡らせる。
すると、馬の蹄の音が辺り響きはじめる。
次第に大きくなるその規則的な音に全員が音がする方に視線を向けると、闇から浮かび上がるようにランタンの燈と馬車らしきシルエットが近づいてくる。
それはやはり四頭の馬が引く荷馬車だった。
まずは目を引いたのは異様な格好をしている御者だ。
黒づくめの服装に大ぶりの帽子を目深に被っているが、その顔には包帯を幾重にも巻いていてその表情はおろか顔を窺うことさえできない。
次に馬車の荷台に載せられている物に私の目は釘付けにされた。
それは……鉄製の柩とも言えるような異様な物体だった。
人1人がようやく入れる程度のサイズの鉄の箱らしき物が荷台に鎖で雁字搦めに括り付けられている。
馬車は私達の一団の只中で停止する。
場の全員がそのあまりに異様な姿に言葉を失っていた。
「聖騎士団の皆様、深夜からの聖務ご苦労様です……こちらが護衛対象になります、目的地は御者が知っておりますので、馬車にお続きください……皆様の行く手に神の雌獅子の加護が在らんことを」
馬車の後ろをついてきていた修道僧らしき男がそう告げて深々と頭を下げると、馬車がまた動き始める。
私達はこの異様な馬車と共に歩き始めるしかなかった。
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