第11話 お茶会


「……ふふ、幾つ齢を重ねても遊び心を忘れたくないものでね」


紅茶の香りを楽しんでいたヴァロワレアン卿は少し遅れて返事を返した。


 それを見ながら私はある非礼に思い当たる。


 自分達が名乗っていない……


 社交場にも顔を出さない謎めいた人物とは聞いたことがあったが、この女性にしか見えない人物がヴァロワレアン家の現当主とは思わなかった。


 私がバツが悪そうにしているとヴァロワレアン卿は私を見て笑みを深め


「ようこそ、ブランフォード家のお嬢さん……名はクレアさんだったね……あと、そちらはハースト=バートランド君……でよかったかな? 趣味に合わないとはいえ、私の管轄する組織だ……それくらいは把握しているさ」


ヴァロワレアンの言葉に私は軽く頭を下げる。


「さぁ、普段の聖都での食事は味気ないだろう? 菓子など滅多に口に入らないはずだ……今日くらい羽目を外したまえよ」


ヴァロワレアンは促して目を細め紅茶を啜る。


 確かに聖都での食事は質素なものが多く、私はそこにも不満が溜まっていた。


 団長が遠慮なく菓子を手に取り食べ始めたため、私とハーストも思い思いに菓子を口にする。


「しかし、アルフレッド……さん……は、女性ではないんですよね?」


 少しして、意外にもフランクなヴァロワレアンとすっかり打ち解けたハーストは不躾な質問をする。


「今更改まることもないだろう? 一応、男だよ……ただ、幼い頃に暗殺者に襲われて、女性の前で口にするには少々憚られる場所を負傷してしまってね……一命は取り留めたものの、男性としての機能と見た目を失い、今に至るというわけさ」


 世間話というには重すぎる内容をヴァロワレアンはサラリと話す。


「さぁ、そんな辛気臭いことなんてどうでも良いだろう、楽しみたまえよ」


 ヴァロワレアンはそう続けて菓子を口に放り込んだ。

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