012 ニートのハーフエルフがやって来た。

 イリーナの指導を始めて1月ほど経った。

 その間のイリーナの成長はめざましく、その秘めたる魔力を覚醒させ始めていたのだった。


 その間、俺はよく耐えたと思う。

 基本全裸で行う俺の修行を嫌がらないイリーナは、どうも俺のことを尊敬している節がある。

 その期待に応えなければ! という鋼の意志で今日まで頑張って来たのだが⋯⋯そろそろ限界だ。

 このままだと俺はイリーナを襲ってしまうに違いない!


 そんな師と教え子の一線を越えるような真似だけはしたくないのだが!

 肝心のイリーナに抵抗する素振りが無いのが問題だ。

 むしろスキをわざと作ってヤれそうな雰囲気を出している⋯⋯とすら感じる時がある。


 これが俺の妄想だとしたら自殺ものの恥ずかしさだが⋯⋯だんだんと核心に思えてきたのも事実!


 しかしなぜイリーナが俺なんかに身体を許してもいいと思えるのか?

 やはりそこは魔法の修行の対価だと思っているからだろう。

 世の中、子弟の関係で身体の関係を迫る輩は多いからな。

 魔法学校時代にも生徒に手を出す教員は居たし⋯⋯。

 そんな奴らを俺は軽蔑していたんだが⋯⋯それと同類になりそうな自分が嫌だった。


『イリーナ、今日まで魔法を教えてやったんだ、おとなしく俺に抱かれろ!』

『⋯⋯はい』


 そんな妄想が現実になりそうな予感はあるが⋯⋯それをしたらもうイリーナは俺から離れていくだろうな。


 もう初級の魔法なら十分扱えるイリーナには俺という師はすでに必要ないのかもしれないし。

 無理に迫ってイリーナが居なくなる事に俺は耐えられそうにない。

 そう⋯⋯今の俺は完全にイリーナに惚れていたのだった。


 まあ最初はエロい身体だけが目的だったんだが⋯⋯。

 でも従順で俺の言う事なら何でも聞くイリーナが可愛く思えるのは仕方ない事だ。

 そんな都合のいい女が世界に居るはずないと思っていたしなあ⋯⋯。


 俺のエロい魔法の授業を疑わず、むしろ嫌な顔すらせずついてくる女、それがイリーナだった。


「このままイリーナと一緒に居たい⋯⋯」


 才能あるイリーナはいずれ俺を超える魔法使いになるだろう。

 その時、魔法しか取り柄の無い俺なんかをイリーナが必要としてくれるだろうか?

 こんな俺を愛してなどくれるのだろうか?


 やがて俺の元を巣立って行くに違いないイリーナと少しでも長く一緒に居たい、その為だけに俺はイリーナに魔法を教え続ける⋯⋯そんな1月だった。




 そんな以前とは全く変わってしまった生活をまた変える者が現れた!

 金髪低身長のロリ巨乳のハーフエルフ女である!


「ジークさ~~ん! ここに私を置いてくださ~い!」


「⋯⋯君はたしか、ギルドの受付嬢の⋯⋯」

「はい! リニアです! ジークさん! 覚えててくれたんですね!」


 それはリニアだった、冒険者ギルドの受付嬢の。


「ジーク様、この方は?」


 ⋯⋯イリーナが怖い、怒っている!?


「⋯⋯俺の所属している街の冒険者ギルドの受付嬢のリニアだ。 ⋯⋯で、君が何でここに?」


 俺にはわからん、リニアが一度会っただけの俺の所に来る理由が。


「私⋯⋯ギルドをクビになったんです~う! このままだと私~! 娼館堕ちして風俗嬢になるんです~! 助けてくださいジークさん!」


「待て待て! 理由はわかったが、なんでそれで俺に縋る? よそへ行けよ!」


「もうこうなったら私! 冒険者になって一山当てるしか人生逆転がないんです! だからSランク冒険者のジークさんの弟子にしてください!」


 くそ⋯⋯面倒になったな。


「⋯⋯リニアさんと言いましたね? もうジーク様には『私』という弟子が居るのです。 ⋯⋯お引き取りを」


 怖っ! イリーナさん怖い⋯⋯。


「⋯⋯そうだな、弟子はもう居るし」


 そう俺が言いかけた時だった。

 リニアは俺にだけ聞こえるような小声で話しかける。


「⋯⋯これ、私の母からです」

「リニアの母親から?」


 そのリニアが手渡す手紙を俺は読む。


 ── ※ ── ※ ──


 拝啓ジーク君。

 私の娘のリニアがあなたの弟子になりたいそうです。

 この子はホントダメな子でもう手に負えません。

 ジーク君にご迷惑かけるのは忍びないので追い返していいです!

 でももしも⋯⋯リニアの面倒を見てくれるというのなら、どうぞ好きに使ってやってください!

 どうせ娼館送りにする以外に道の無い子です。

 ジーク君の若い欲望の捌け口としてご自由に使って構いません。


 リニアの母でギルドマスターのミルナリアより。


 ── ※ ── ※ ──


「ふふふ! 私の母さんの頼みを断るわけないですよね!」


 勝ち誇った面しやがって、このメスガキが⋯⋯。

 おそらくリニアはこの手紙の内容を知らないな、もしくはミルさんに騙されたか。


 しかしこの女はミルさんの娘だったとは。

 しかもあのミルさんが今のギルマスだったとは知らなかったな。

 これは困った、ギルマスの顔を立てておいた方が今後も有利なのは間違いないし。


「⋯⋯この手紙の相手、君の母親のミルさんには俺は昔世話になった」

「ですよねー!」


 勝利を確信しているような殴りたい満面の笑顔だった。


「君を置いてやる代わりに君のことは自由に使っていい、というか俺の性奴隷にして構わん⋯⋯と書いてあるな」

「嘘!?」


 俺からひったくるようにリニアは手紙を奪い取り読んで⋯⋯絶望顔になった。

 ⋯⋯ざまぁ!


「どうする? ここで俺の慰み者になるか? 帰るか?」

「イーヤー!?」


「⋯⋯ジーク様? その娘を慰み者に使うのですか?」


 怖いな⋯⋯イリーナが怖い。


「あくまでミルさんがそう許可しているだけで、俺がそうする気はないよ」


 その俺の言葉に希望を持ったのかリニアは土下座した。


「お願いします! ここに居させてください! でも性奴隷は嫌なんです~! 初めての人は年下の可愛いショタ君と決めているんです!」


「お前の性癖はどうでもいいよ! てかお前いくつだよ!」


 どう見てもリニアはイリーナよりも幼い外見だった。


「まだ28歳のピチピチのハーフエルフっすよ!」

「俺と同い年タメじゃねえか!」


「でもハーフエルフっすよ私! 人間よりも若い期間が長いんですよ! でもおっさんは私の好みじゃないので、マジ勘弁!」

「やかましい! 帰れ、お前は!」


 その後、見苦しくリニアは自身の身の上話を聞かせてきた。

 というか母親のミルさんの苦労話だった。


 ミルさんは純血のエルフだが森を出て街で冒険者をやっていた変わり者だった。

 それで約30年くらい前に同じ冒険者の男と結婚して生まれたのがリニアだという。

 その結婚相手の旦那さんは最近亡くなったらしいが⋯⋯まあ天命ってやつで仕方ない事だ。


 しかしその事がきっかけでミルさんは娘の今後を考え直したらしい。

 それまでこのリニアはずっと働いたことのない穀潰しだったそうだ。


 いくつかアルバイトをやらせたようだがどこもクビになり、それで最終的にミルさんのコネで冒険者ギルドで働かせていたらしいが⋯⋯。


「いやー、毎日朝6時に出勤とかありえないっしょ!」


 朝7時にはもうギルドに冒険者は殺到して依頼の取り合いが基本だからな⋯⋯。


「それを寝坊でサボるとか⋯⋯迷惑な奴め」


 それでキレたミルさんにとうとうクビを言い渡されたらしい⋯⋯。

 そらミルさんも怒るわ、ギルマスの顔を潰したんだからな。


「⋯⋯娼館行きか、大変かもしれんがその見た目だけはいい顔とデカイおっぱいなら客は取れるだろう。 がんばれ!」


「イーヤー! 見捨てないでー! ここが最後の希望なんです! 何でもしますからここに置いてください!」


「じゃあ置いてやったとしてお前⋯⋯なにしてくれるの?」

「⋯⋯胸を触らせる⋯⋯くらいなら我慢します」


「話にならんな。 今俺と一緒に暮らしているこのイリーナはな! ⋯⋯俺と毎晩添い寝してくれるんだそ」

「そっ添い寝!?」


「さらに毎日裸エプロンで食事を作ってくれて、お風呂ではそのおっぱいで背中洗ってくれるんだ!」

「ジーク様!?」


「⋯⋯お姉さん? おっさんの性奴隷だったんですか?」


「え? ⋯⋯そうよ!」

「違う! イリーナはあくまでも俺の教え子の弟子で! その⋯⋯性奴隷とかじゃなくてさ⋯⋯」


「アンタ教え子に対してセクハラを強要とか⋯⋯最低っすね」


「ち⋯⋯違う! 俺は強要なんてしていない! イリーナがなぜかしてくれるだけで! ⋯⋯それに甘えてしまう俺は情けない男なんだ!」

「ちっとも情けなくなんかありませんジーク様は! ジーク様はとっても素敵な方で⋯⋯その私は⋯⋯」


「お姉さん、おっさんに無理やりじゃないのにその尽くしっぷり⋯⋯もしかしてこのおっさんの事好きなの!?」


「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯はい!」


 ⋯⋯!?

 え? 今なんて!?


「イリーナ? 俺の事、好きなの?」

「⋯⋯はい♡」


 ⋯⋯マジか!?


「じゃあ俺がおっぱい揉ませてって頼めば、揉ませてくれるの!?」

「そのくらい全然かまいません! むしろそれ以上でも♡」


 ⋯⋯なんてことだ。

 そうかイリーナは俺の事が好きだったのか。

 俺は何を怯えていたんだろうな。


 ⋯⋯しかし俺なんかのどこにイリーナが惚れる要素があったのか、まったくわからん。


「イリーナ♡」

「ジーク様♡」


 見つめあう俺たち2人⋯⋯。


「ちょっと! 私を忘れないで! 私の人生どうなるのよ!」


 こうして俺の生活は、また新たな局面に入ったのだった。

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