016 新人冒険者の壁、それがゴブリン退治

「うーんと⋯⋯薬草採取なんかを頼むのももったいないわね、ジーク君のお弟子さんには?」

「まあその辺のイロハは山でさんざんやらせましたけどね」


 俺の住む山では薬草なんか取り放題だからな、それでイリーナとリニアには採取の基本は叩き込んだ。


「じゃあ⋯⋯ゴブリンかな、やっぱり?」

「ゴブリン退治ですか?」


「うわ~母さん鬼畜! 私みたいな美少女にゴブリンの苗床になれとか!」

「黙れクソガキが⋯⋯。 でも実際討伐系のクエストだとこれが基本なのよね」

「まあ昔からそうですよね」


 ゴブリン退治、昔からある討伐クエストの初歩である。

 しかし初心者冒険者の、とくに女冒険者の最初の試練といっても過言ではない。

 その理由はやはり同じ人型の生物を殺すという忌避感と⋯⋯女性を苗床にして繁殖するその性質からだろう。


「⋯⋯ゴブリンに襲われるとか、考えたくありませんね」

「大丈夫だイリーナ。 俺が君を守るから!」

「ジーク様が居てくれるなら大丈夫ですね♡」


「ち⋯⋯このバカップルが⋯⋯」

「あらあらお熱いのね♡ ⋯⋯ところでリニア? そのジーク君のバカップルぶり聞かせて?」

「こいつら告ったその日から毎晩──」


「やめんかバカ者!」

「やめて! そんな事言わないでよ!」


「ねえ、ジーク君?」

「⋯⋯なんでしょうかミルさん」

「リニアには手を出してないのね?」

「もちろんです! だって彼女が出来たんですよ、俺!」


「そうです! リニアさんのサンオイルは私が塗って差し上げていたので!」

「サンオイル? 一体どんな修行だったのよ?」

「ちょーエロい、セクハラ指導だったよ母さん」

「おいコラ! リニア!」


 俺はリニアに詰めかけたのだが⋯⋯その時背後から⋯⋯。


「ジーク君? あとでオ・ハ・ナ・シ・が、あります」

「⋯⋯はい」


 どうやら逃げられそうもないな。

 そう俺は観念して捕まったのだった。




 そしてゴブリン討伐の説明が進んだんだが⋯⋯。


「ええー! ジーク様と一緒に行けないのですか!?」

「あなたとリニアは今日登録したばかりのFランクだからね。 ジーク君はSランクだし」


 あ⋯⋯そうか! ランク差があったの忘れていた!


 ギルドではあまり実力差がありすぎるパーティーを禁止しているんだった。

 ランク差2つまでが許容範囲であり、俺のSランクと同行出来るのはBランク以上までなのだ。

 そんな訳で最下級のFランクのイリーナたちが一緒に行けるのはDランクまでである。


 俺は基本ボッチのソロ専だったから、その辺のルールを忘れていた⋯⋯。


 その瞬間! ギルド内にたむろしていたむさい野郎の冒険者たちが殺到する!


「イリーナちゃ~ん! 俺たちと一緒に狩にいかないか!」

「リニアちゃん! 俺と一緒に行こうぜ! ⋯⋯ウへへ」


 ⋯⋯っく! イリーナに近づくなよ、この盛った雄共がよ!


「申し訳ありませんが私はこのジーク様以外の男性とパーティーを組む気はありません!」

「ん~、私もカワイイ美少年ショタじゃなきゃお断りかな!」


 そうすげなく断る2人だった。


「⋯⋯そんな、こんな可愛いイリーナちゃんがあんな偏屈賢者しか見ないなんて!」

「ゴブリンの苗床になって修道院送りになっても知らねえぞ!」


 そう捨て台詞を吐いて引き下がる男たちだった。


「しかし2人だけで行くのも心配だな。 まあイリーナならゴブリンくらいならもう問題なく対処できるが、それでも万が一はあるからな」


「そもそも負けたら苗床確定なのに、女の新人冒険者に斡旋するギルドがおかしいんですよねー」

「苗床⋯⋯」


 うーんリニアは短い間とはいえギルドの受付嬢をやっていて、その最初のゴブリン退治に失敗した女冒険者を何人か見て来たらしいな。


「とはいっても、本当にゴブリンが雑魚なのは事実なのよね⋯⋯。 だからいくら負けたら死亡か苗床でも、そうそう脅威度が上がらなくて新人冒険者の仕事のままなのよね」


 まあそんなもんだギルドや国の決める基準なんてな。

 でもどんな仕事にも万が一の死亡のリスクはあるからな。


 むしろ女の場合は酷い目にあっても殺されることは少ない分やり直せるチャンスがある、それがゴブリン退治という仕事なのだった。


「とはいえ、万が一にもイリーナがゴブリンに負ける訳にはいかないからな」

「もうおっさんがさんざん辱めたんだし、いいじゃんべつに」


「イリーナはダメ! リニア、お前ならべつに苗床になっても一向にかまわんけどな!」

「ジーク様♡」

「酷い、差別だ! 横暴だ! 弟子を贔屓するな! もっと私もかわいがってよ、甘やかしてよ!」


「かわいがって甘やかしたくなる女ってのはな! この⋯⋯イリーナ⋯⋯見たいのを言うんだよ! お前はなんか殴りたくなる!」


「そんなの師匠の性癖じゃん! 普通は私みたいな低身長ロリ巨乳の美少女に尽くして貢ぎたくなるもんなんですよ! 男ってのはね!」


「じゃあ聞いてみようか? お──い! ここにいる野郎ども! 恋人にするならこのイリーナとリニア! どっちがいい?」


 そのアンケートの結果は圧倒的にイリーナの勝ちだった。


「なんでよー!」

「⋯⋯デュフフ。 リニアちゃんなら一生養ってあげてもいいよ」

「嫌じゃあ! お前みたいなキモいおっさん!」


 リニアお前⋯⋯古参の熟練冒険者の先輩になんてことを⋯⋯。

 その人Aランク冒険者でそうとう稼いでいる人なんだぞ?

 お前の理想の寄生先だったのに、もったいない⋯⋯。


「そろそろ真面目に話すか。 イリーナのゴブリン対策が要るな」

「対策も何も、ただ押し倒されない立ち回り⋯⋯それ以外にないのでは?」


「俺にいい考えがある!」


 こんなこともあろうかと俺はかねてより考えていた魔道具を取り出した!


「『ゴブリン・アラーム』!」


「ジーク君、なんなのそれは?」


 俺はこの魔道具の説明を始めた。


「ゴブリンが女を犯す時にはこう⋯⋯服を剥ぎ取るだろ? その時にこのベルト⋯⋯というかこのバックルの部分が外れやすくなっている作りだ。 そしてこのバックルが外れた時にゴブリンを昏倒させる超音波が発生するという仕組みだ!」


 この説明をミルさんだけでなく、このギルドに居る⋯⋯特に女の冒険者は感心してくれた。


「すごい⋯⋯。 コレがあったら女冒険者の苗床確率は一気に減るわ!」

「こんなすごいものを! さすがですジーク様!」


 そんな感じでなかなか好評だった、この魔道具は!


「⋯⋯師匠、コレさあ?」

「なんだリニア?」

「ゴブリンの集団にワザと聞かせて怯んだところを殲滅すれば、楽に狩れるんじゃないかと?」

「⋯⋯そういうズルい事考えるなよ」


 まあそういう使い方もできるが⋯⋯。


「しょせんはゴブリンなんだ。 強さでは最下級のモンスターで、それさえまともに倒せないと冒険者なんてやってられないぞ」


「女から見たらものすごい厄介な相手に思えるゴブリンも、しょせんはザコなんだ⋯⋯」

「まあそれが現実なんだよな⋯⋯」


 こうして様々な対策を施しつつ俺は、弟子たちの初のゴブリン退治に送り出すのだった。

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