017 賢者は愛弟子のゴブリン討伐を見守る
俺は万全の対策を与えてイリーナをゴブリン退治に向かわせたのだった。
しかし、万が一にもイリーナがゴブリンの毒牙にかかる事は許さん!
という事で俺は透明マントを使ってコッソリと後を追ったのだった。
依頼を受けたイリーナとリニアの2人が着いたのは、街からそう離れていない森だった。
そこでのゴブリン退治が今回の依頼である。
まあ楽勝だな2人の戦闘力なら。
これが洞窟の中とかの見晴らしの悪い場所とかならまだ不覚を取る可能性もあるんだが、こうも視界が開けた場所ではな。
でも隠れて見守る心配性な俺だった。
「さあ! ゴブリンを皆殺しっすよ!」
そうシャドーボクシングするリニアと、
「早く戻ってジーク様に褒めてもらわないと♡」
そうウットリと抜身のレイピアを見つめるイリーナだった。
とりあえず俺はこっそりと索敵魔法で周囲を探る。
するとゴブリンらしき反応があった。
まだ2人は気がついていないみたいだ。
まあこれも経験だ、ギリギリまで見守ろう。
そう俺は様子を見ることにしたのだった。
「リニアさん! ゴブリン発見です!」
俺より遅れたがそれでも安全圏内でイリーナの索敵魔法が成功した。
「え!? マジっすか!」
⋯⋯リニアの索敵魔法は失格だな、まだまだである。
とりあえず2人は気づかれないようにゴブリンに接近する。
「数は⋯⋯5体か。 ここから魔法の狙撃で一層しますね」
そうイリーナは判断したようだ。
いいぞイリーナ不必要なリスクを負う必要はない、安全確実な手段があるならそれを使えばいいのだ。
「ちょい待ちイリーナさん」
「なんですか?」
「コレ⋯⋯使ってみましょう」
リニアが指さしたのは彼女の胸元に取り付けた俺の作ってやったアラームだった。
「それは緊急時の?」
「でも効果の実証もない物を命綱に出来る? まず私がコレの音でゴブリンに奇襲をかける! もしも私がピンチになったらイリーナさんが助けて」
⋯⋯ふむ? 悪くない提案だな。
確かに俺はあのアラームを完成させるのに何度もゴブリン相手にテストしたが、その様子を2人は見ていたわけじゃないし。
慎重にその効果をまず確かめるというのはいい事だ。
まあそれに頼って楽な狩りを続けるなら減点だけどな。
「わかりましたわ」
こうして打ち合わせの終わった2人がポジションに分かれた。
リニアがゴブリンに近づき、イリーナが後方からバックアップだ。
「ゴブッ! ゴブッ! (おい! 若いメスだぜ!)」
「ゴブッ! ゴブッ! (ヒャッハー! 生け捕りだ!)」
ようやくゴブリンもリニアに気がついたようである!
ゴブリンはリニアを囲むように近づく⋯⋯。
俺がリニアに叩き込んだ格闘術ならゴブリン5体くらいなら楽に対処できるが⋯⋯今回はアラームのテストだ、どうなるか?
「よーし! 近づいてきましたね、お馬鹿さん!」
そして楽しそうにリニアは胸の第二ボタン近くに取り付けたアラームを⋯⋯鳴らした!
キイィ──────ンッ!
甲高い音が鳴り響く!
俺とイリーナは思わず耳を塞ぐが⋯⋯。
「ゴゴゴブゥ!? ゴゴゴブゥ!?」
おー、ゴブリンに効果てきめんだな、さすが俺の作った魔道具だ!
「ぐおおおお~~ぉ!!?」
ところが一番苦しんでいるのはリニアだった。
⋯⋯そうか、リニアはハーフエルフだったな。
俺たち人間よりも聴覚が優れているのだろう、おかげでゴブリンより大ダメージである。
⋯⋯もしも家でイリーナとエロい事していたら絶対に聞かれていただろうな⋯⋯よかった、まだ手を出していなくて。
あのリニアにバレていたら絶対にからかわれるに決まっているからな!
そう思ったから自重してたんだぜ!
「リニアさん!」
すかさずリニアの救出に向かうイリーナだった。
苦しみのたうち回るリニアを放ってイリーナは、倒れているゴブリン討伐を優先したようだ。
「アイス・アロー!」
やや遠距離からのイリーナの魔法は的確にゴブリンを始末した。
そして最後の1体が苦し紛れにイリーナに反撃をするが⋯⋯あっけなくイリーナは剣で刺し殺す。
正確に喉を一突き⋯⋯致命傷だ!
⋯⋯イリーナって俺が教える前から剣術は身に着けていたんだよな。
しかも俺のような我流剣術じゃない、貴族のような正統派剣術を。
やっぱりイリーナはいいところのお嬢様だったんだろう。
それがどんな理由で俺なんかの所へ来ることになったのやら?
⋯⋯まあいいか、理由なんか。
イリーナが俺の所に来て恋人⋯⋯になって、出ていく気が無いというのなら何でもいいや。
もしもイリーナが何かのトラブル解決を俺に頼んできたのならなんだって手を貸すが、そう言いだす気配は今のところ全く無いし。
という事はイリーナにとってもう過去は無いもの扱いなんだろう。
だから俺もイリーナの過去を詮索しようという気はない。
女の過去にこだわらないのがカッコいい男なのさ⋯⋯。
そんな事を考えていたらゴブリンの増援がやってきてリニアを襲っていた!
どうやら苦し紛れにリニアが高周波を止めたようだ。
でもそのせいで他のゴブリン別動隊に襲われるとは⋯⋯哀れなリニアめ。
「おお!? やめろゴブリン! ぶっとばすぞー!」
しかし寝転がっていたリニアはゴブリンに押し倒されて⋯⋯ありゃもう駄目だな。
自力で助かる見込みはないな。
リニアの格闘技術はしょせん立ち技限定、寝技はザコである。
ご愁傷様、リニアの初体験はゴブリンかー。
「ちょ! やめ!? 私の初めては、年下のショタ君って決めているんだから!」
でもまだ余裕そうだな⋯⋯しぶとい。
まあリニアの性癖はどうでもいいがゴブリンはあんがい短命種だからな。
だからきっとそのゴブリンは10歳くらいのショタ君で間違いないぞ、よかったな夢が叶って。
そんなリニアの服を剥ぎ取ったゴブリンだったが──。
キイィ──────ンッ!
再び高周波のアラーム炸裂である!
服を剥ぎ取られリニアのおっぱいがまる出しになっているが、そのせいで第二ボタンの位置のアラームが外れて鳴ったようだ。
「ゴゴゴブゥ!? ゴゴゴブゥ!?」
「ぐおおおお~~ぉ!!?」
そして仲良く悶えるリニアとゴブリンたちだった⋯⋯。
それにとどめを刺したのはもちろんイリーナである。
「大丈夫ですかリニア?」
「⋯⋯大丈夫。 貞操は守られたから⋯⋯。 ありがとイリーナさん」
「どういたしまして。 ⋯⋯でも、もうそのアラームに頼るのはやめた方がいいですね」
「こんな使えねーモンよこしやがって! あのエロ師匠め!」
失礼な、ちゃんと効果はあっただろ?
しかしあれを商品化するのはやめた方がいいな。
どう考えても正しい使い方よりもエルフ族襲撃に使われそうだ。
防犯装置として作ったものが悪事に使われるのは不本意だしな。
べつに俺は善人ってわけじゃないが悪事に加担するほど金に困っていないだけなのだ。
この後も俺は隠れて2人の様子を見守っていたが⋯⋯そこからは危なげなく立ち回っていた。
「オーラナックルうぅ~!」
意外にもリニアは攻撃魔法よりも防御魔法が得意なタイプだった。
それを生かした戦法が俺が教えた『オーラナックル』である。
正確には光属性の防御魔法『ライト・シールド』なのだが、それを拳一点に凝縮して相手を殴る⋯⋯ただそれだけである。
しかし威力は見てのとおりだ。
ゴブリンごときの頭蓋ならたやすく破壊できる!
てかちゃんと戦えばリニアだってゴブリンごときに遅れは取らないんだよ、わかったか不真面目な弟子め!
「ウインド・カッター! アース・ランス!」
イリーナは基本四属性が得意だが、この森では火は使わないようにそれ以外の属性で戦っている。
このイリーナを見て3か月前までまったく魔法が使えなかったなんて誰も思わないだろうな。
⋯⋯これも俺の指導のおかげか。
学校の授業だと3か月かけても魔力に目覚めるのがやっと、といったところかな?
少なくとも実戦で戦える魔法使いにまで成れるわけがない。
やはり俺の考えた全裸魔力習得法は素晴らしい!
まあそういった指導を魔法学校でしようとしたから追放された訳なんだが⋯⋯もう今となってはもうどうでもいいや。
ああいうエロい指導は確かな信頼関係がある子弟でなければ出来ない事だと確信できたよ、今更だけどな。
⋯⋯ずっと考えていた。
なぜイリーナが俺のあのエロ指導について来てくれたのかと?
イリーナはリニアと違ってそこまで追い込まれていたわけじゃないからな⋯⋯。
まあイリーナが俺のことを⋯⋯好き⋯⋯だったとわかったから理解はできたが、それだとなんで俺なんか好きになったんだ? という疑問が湧いてくる。
イリーナが俺に惚れるところ⋯⋯あったか?
まあ確かに何度もイリーナのピンチを救ったが⋯⋯それ以前からイリーナには俺への信頼があった気がする。
イリーナが俺に向ける好意の正体がわからない⋯⋯。
そのせいで未だに俺はイリーナと本気で向き合えないままだった。
おかげで毎朝リニアに「昨夜もお楽しみにならなかったのですね、なんで? イリーナさん、いつでもウエルカムじゃないですかー」なんて言われ続けているからな⋯⋯。
俺も早く覚悟を決めて、それから⋯⋯リニアをさっさと追い出してからイリーナとイチャつこうと思っている。
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