019 辺境伯ルドルフ・フォン・ゲイスコットの悩み
俺たちは貴族の屋敷に行くことにしたのだが⋯⋯。
「あのジーク様! 私は先に家に戻って料理の支度でも⋯⋯今夜は初めての冒険者のお祝いのご馳走にしようと思うのですが!」
そういつもより早口なイリーナだった。
「⋯⋯そうだな。 じゃあイリーナは先に帰っててくれ」
「はい! そうさせてもらいますね!」
そしてそそくさとイリーナは1人で冒険者ギルドから逃げるように出ていった。
「⋯⋯師匠? あのイリーナさんって?」
「黙ってろリニア、まあ関わりたくないんだろイリーナは⋯⋯な」
「私には逃げるなって言っといてイリーナさんには甘いんだから、師匠は」
「しょうがないだろイリーナだし。 お前とは立場が違う」
立場が違うとはいろんな意味があるが⋯⋯。
「はあ⋯⋯しょうがないか、イリーナさん絶対
今日まで2か月間、リニアはイリーナと暮らしていた。
リニアは確かに身勝手な女だが鈍感ではない。
むしろ察しがよい部類の女である。
そんなリニアは少ない情報の中からイリーナがどこかのお嬢様だという結論に俺と同じように辿り着いている。
「もしかしたらイリーナと伯爵は面識があるのかもな」
「そうっすね」
こうしてイリーナは先に帰り、残った俺とリニアだけで伯爵邸へご招待となったのだった。
伯爵邸までは近い、俺たちは徒歩で移動する。
短い時間だが暇つぶしに俺は案内の兵士に話しかける。
「最近どうなんだ?」
「⋯⋯正直、激務が続いております」
「そうか⋯⋯大変だなルドルフも」
それは何となく察していた、伯爵であるルドルフ本人が戦場に出る事態なのだ。
「その私などが言う事ではありませんがジーク様、お願いします。 伯爵様を支えてくださいませ」
「たしかにお前に言われる事じゃないな。 でもまあルドルフは俺の親友だ」
「ありがとうございます、賢者ジーク様」
そんな俺たちの会話を見てリニアは驚く。
「師匠⋯⋯そんなに偉かったんですか?」
「偉くねえよ。 ただルドルフとはガキの頃からの付き合いってだけさ」
「へー、そうだったんだ」
「⋯⋯だからと言って馬鹿な真似すんなよ。 貴族が手打ちって言ったら俺でも庇い切れんからな、お前なんか首チョンパだぞ?」
「ひえええぇ!?」
まあこのくらい脅しとけば大丈夫だろう、まあルドルフの奴はそんな理不尽な真似はしないだろうけどな。
でもそれに甘えるのは間違っているから俺がリニアを躾けとかないと⋯⋯。
そんな事を考えている間に着いたここがゲイスコット邸である。
こうして俺は久々に親友と再会するのだった。
「ジークじゃないか! どうして!?」
「なにコイツの師匠は俺なんでな、それで付き添いだ」
俺とルドルフは久々の再会をしたが⋯⋯やつれたなルドルフは。
「そうか! あの治癒魔法を教えたのはジークだったのか! さっきはありがとう、エルフのお嬢さん」
「リニアです! その伯爵様⋯⋯。 あと私はハーフエルフなんです」
「ハーフ? そういえば確かに耳が少し短いな」
エルフ族は耳が人間よりも長いがハーフエルフになると少しだけ短くなる者もいる、リニアもそのタイプだった。
基本エルフ族はミルさんのような
まあ要するにリニアの低身長のロリ巨乳な特徴はハーフエルフの特性が大きい。
「リニア気にするな、この伯爵様はハーフエルフとか差別しない変わり者だからな」
「変わり者とは失礼だなジーク」
「だがいいやつだよルドルフは」
そう笑いあう俺とルドルフだった。
「そういや師匠も私の耳⋯⋯笑わないんですね」
まあ確かに、エルフより短く人間より長いハーフエルフの耳は嘲笑の理由になる事も多いけどな。
「お前の場合は先に目が行くのがそのおっぱいの方だからな。 耳とかどうでもいいし」
「ジーク、君ってやつは⋯⋯女性に失礼だろ?」
「⋯⋯そんな目で見ていたんですか? まあ知ってたけどな、おっさん!」
「ほら見ろ! ルドルフ! これがこの女の本性だよ! 聖女なんて柄じゃないぜ!」
「ムキー! たしかに私は聖女なんて柄じゃないけど他人に言われるのはムカつく!」
俺とリニアは伯爵様の前でふざけあうのだった。
「ははは! なるほどね。 ⋯⋯いい弟子を見つけたなジーク、安心したよ」
「まあ俺の事は良いよ。 それよりも⋯⋯ルドルフお前、やつれたな」
「⋯⋯まあね。 あんなことがあったからなあ」
「あんな事って?」
「そうか⋯⋯ジークは森に引きこもっていたから知らないか」
「なにかあったのか?」
「まあ天罰かな? はは⋯⋯不正は良くないってことだよなあ⋯⋯」
そこからのルドルフの話は大半が愚痴だった。
「ほら
「ああアレか⋯⋯」
「その報酬がさ⋯⋯ファイリーナ姫との婚姻だったんだよ」
「ファイリーナ姫?」
俺は記憶を引きずり出す。
たしか王の末娘がそんな名前だったような?
そうそう、俺が助けた姫だ!
『ジーク様! 私と結婚してください!』
『ははは⋯⋯姫がもっと大きくなったらね』
『はいジーク様! 私! ジーク様の為に大きくなりますから、それまで待っててくださいね!』
⋯⋯そんな記憶が蘇る。
まあ10年以上前の子供の戯言だ、たいして期待などしていない。
しかしあの
「おめでとうルドルフ! これで伯爵様から公爵様に出世だな」
「公爵になるのは僕と姫の子供からだな。 それまでの僕は辺境伯になる予定⋯⋯だった」
「予定だった?」
「⋯⋯ファイリーナ姫が死んだらしい」
「は?」
「婚姻の為に姫がこちらに来る途中で崖崩れで死んだらしいんだ⋯⋯」
「それは⋯⋯気の毒に⋯⋯」
なんて言やいいんだよ⋯⋯。
「⋯⋯師匠? これ私が聞いてもいい話ですか?」
「はは、別にもういいよ。 もう事故から3か月⋯⋯生存は絶望的で、もう王宮では葬儀も執り行われたし⋯⋯」
「そんな事があったのか⋯⋯」
それでルドルフの出世もパーか⋯⋯酷い話だな。
「それでルドルフが責任取らされているのか?」
「いや僕の責任じゃないよ。 あくまでも管理責任は王宮側だったし、でもこっちにも義理はあるからね。 姫の遺品⋯⋯体の一部でも発見できればそれで王も納得してくれると思ったんだが⋯⋯何も見つからなくてね」
「姫の遺体が無いのか?」
「ああ見つからん」
まあ不思議でもない話だ。
たぶんモンスターに食われたんだろうな⋯⋯きっと。
「⋯⋯あの、ファイリーナ姫ってどんな人なんですか?」
なんだ? 急に話に入って来たなリニア?
「ファイリーナ姫は『銀閃の姫騎士』と呼ばれる方だったよ」
「なんか強そうな姫だったんだな」
俺にはペッタンコのロリ姫の印象しか残っていないが⋯⋯。
「まあね。 僕が最後に拝謁したのは2年くらい前の王宮の武闘会だったな」
「武闘会? 舞踏会じゃなくて?」
「剣士だぞ姫は。 ⋯⋯まあ全然剣士って感じや無かったけどな、美しい銀髪のまさにお姫様って感じでさ」
銀髪? 剣士? なにそれ、ホントに姫様なのか?
「⋯⋯⋯⋯その姫が失踪したのって
「ああそうだよ」
「⋯⋯
⋯⋯⋯⋯あれ?
⋯⋯銀髪⋯⋯剣士? あれ?
「
「なんだ!
なんかわざとらしく合わせてくれたなリニアは⋯⋯ヤバイ!
「すまんなルドルフ! 忙しい時にお邪魔してな!」
「べつにジークならいつでも歓迎さ」
「⋯⋯じゃあ今日のところはこの辺で!」
「そうか? またいつでも来いよなジーク」
こうして俺とリニアは逃げるように伯爵邸を後にするのだった!
俺とリニアは魔女箒に乗って大急ぎで家に戻る!
「師匠! さっきの話!」
「たぶんイリーナの事だ!」
「おーまいがっ! どうするんです!」
「どうするもこうするも! とりあえずイリーナに話を聞いてからじゃないと! ⋯⋯まだ確定じゃないし」
「はあ!? 確定でしょ! 3か月前に転がり込んできた銀髪の剣士なんか他に居ませんよ!」
「だよなー!」
やばい! ヤバすぎる!?
もしも本当にイリーナがファイリーナ姫だったら!
「師匠⋯⋯ 首チョンパですね」
「うるせー!」
「伯爵様に嫁入り予定の姫を寝取るとか⋯⋯しかもお友達の伯爵様から!」
「そんなつもりは無かったんだよ! それにまだ手は出してないし!」
「まだ手は出していない? それマジで言ってんの!?」
「そろそろ限界だったけど、お前が来たせいで手が出せなくなったんだよ! ちくしょうめ!」
「ははは! じゃあ師匠私に感謝ですね! これは一生養ってもらうくらいの借りっすよ!」
「やかましいわ! それに今後次第じゃ結局俺は破滅だよ!」
そうだよなー。
いくら手を出していないからと言ってもあんなセクハラ授業を3か月間もしてきたんだ、これはもうギロチン待ったなしである!
「とにかく帰ってイリーナと話す! あとはそれから考えるぞ!」
この時の俺は国外へ逃げる算段をすでに始めていた。
しかしそれは実行されなかった。
なぜなら帰るとそこにはイリーナの姿が無かったからである。
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