022 ジークの決意! 無双する賢者

 俺はルドルフの屋敷を出た。


「行くんですか?」

「まあな」


 これは俺のケジメみたいなもんだな。


「⋯⋯リニア、これやるよ」


 俺は鍵をリニアに渡した。


「なんすかこれ?」

「家の蔵の鍵だ。 まあけっこうな貴重品があるから売ればお前が数年ニート出来るくらいにはなるだろう、やる」


「⋯⋯いらない。 帰らないつもりなんですね!」

「だってお姫様を攫いに行くんだぞ?」


「じゃあ私も付いて行くっす」

「お前が付き合う理由は無いだろ?」


「⋯⋯ありますよ。 だって私⋯⋯イリーナさんの恋を応援するって約束したから」

「バカだなお前。 でもありがとな」


 こうして俺とリニアはイリーナ奪還に向かう事になったのだ。




 そして俺たちは箒に乗って空を飛ぶ。


「ファイリーナ姫を乗せた馬車が昨日この街を出たのなら、この箒なら2時間くらいで追いつくだろう!」


 馬車で王都まで向かうなら片道10日くらいはかかる日程になる、追いつくのは簡単だった。


「でも追いついたらどうするんですか?」

「とりあえず姫と会ってイリーナ本人か確認する」


「もしも別人だったら?」

「全力で逃げる」


「じゃあイリーナさんだったら?」

「⋯⋯その時考える」


「無計画ですね⋯⋯」

「こういうのは臨機応変というのだ!」


 こうして作戦を考えながら俺たちが飛んでいると⋯⋯。


「あれ? 師匠! あれじゃないですか!」

「ほんとだ。 あの馬車の紋章はこの国の紋章だ!」


 なんかあっけなく追いついてしまった?


「でもなんでこんなに早く?」

「街を出たのが昨日じゃなくて今日だったんじゃ?」

「そっか⋯⋯」


 まあいいか、追いついたんだし。

 しかし追いつくのが早すぎて作戦が何も決まっていない⋯⋯。

 もういいか、やっちまえ!


「さて⋯⋯今から襲撃するわけだが。 これ着けろ」

「なに? 覆面?」


 そう顔を隠すマスクである。


「顔を隠していれば誤魔化せるかもしれん」

「ナイスアイデアですね!」


 そう言って覆面をしたリニアを見たが⋯⋯意味ないかもしれん。

 顔を隠しておっぱいを隠さず!

 あのおっぱいで身元がバレそうだ。


 そして俺も別のマスクを取り出して被る。


「⋯⋯おっさん、ホントにそんなのかぶって行くの?」

「当たり前だろ? 正体を隠すにはこれが一番だ」


 こうして俺たちはマスクで顔を隠し終わった。


「やっぱりお前はここに残れ」

「いーや行くっす。 ここで師匠やイリーナさんに貸を作って人生安泰っす」


 嘘ばっかりだな。

 最初はムカつく女だと思っていたリニアだったが、なんだか最近好きになって来た。


「じゃあイリーナを助けてみんなで国外に逃げるとするか」

「いいっすねそれ! 3人でずっと一緒、悪くない人生っす」


 この襲撃が成功しても失敗しても、俺はこの国には居られないだろう。

 でもいいかそれでも、イリーナとリニアと一緒ならどこでも楽しそうだ。


「いくぞ! リニア!」

「おうっす!」


 ── ※ ── ※ ──


「これで一安心ですねロザリア」

「ほんとに⋯⋯助かったわね」


 私たち王宮騎士団のファイリーナ姫の護送任務は最悪だった。

 なにせ要警護対象の姫を死なせるという大失態だったからだ。

 あのまま王都に戻れば我々は死罪だっただろう。


 せっかく魔法学校を卒業して栄えある王宮騎士団に入団したというのに、それはあんまりである。


 しかし幸運にもファイリーナ姫のに成功し、このまま戻れば叱責は受けるだろうが何とかなる⋯⋯かもしれない。


「このまま何事もなく城まで戻るぞ、みんな!」


 そう私は仲間たちに号令を送るのだった。

 その時だった。


「ロザリア! 敵襲だ!」

「嘘! なんで!?」


 私たちは周囲には警戒をしていた。

 しかしその襲撃者はよりによって空から現れたのである!


「まさか! 魔女箒!? 実用化された魔女箒が存在するなんて!」


「ダーク・ミスト!」


 その襲撃者は怪しげな術を使い周囲の視界を遮ったのだった。

 たちまち隊列は乱れ、混乱する私たちだった。


 ── ※ ── ※ ──


「ダーク・ミスト!」


 俺の初手の闇の霧を発生させる魔法が炸裂した!

 これで相手の視界を遮る!

 その隙にファイリーナ姫と会うのだ!


 だが!


「エアロ・シューター!」


 なに!?

 女の声が響き、その風の魔法で俺の闇の霧は吹き飛ばされた!


「対応が早い⋯⋯そして的確だ!」


 俺の得意の陰魔法の対策をこうもあっさりと⋯⋯。

 闇の霧が晴れて見渡せるようになった相手を至近距離で確認する。


 ⋯⋯数はざっと30人くらいか。

 だいたい男女半々くらいの編成だった。

 けっこう女が多いな? これは姫の護送だからその配慮なのかもな。


「⋯⋯そこにつけ込むか」

「どうするの師匠?」

「よく見ておけよ弟子2号!」


 俺はさっきの風の魔法のお返しをしてやることにした。


「アップドラフト!」


 俺の使った魔法は局所的に強い上昇気流を発生させる魔法で殺傷力は無い。

 だがどんな魔法も使い方次第よ⋯⋯。


 この上昇気流の目的は俺たちの着地のクッションであると同時に⋯⋯。


「「「「「きゃ──っ!?」」」」」


 巻き起こるパンツ天国である!


 ふ⋯⋯姫の護衛の女騎士どもは揃いも揃って眩しい絶対領域フトモモのエロいミニスカートである。

 これを利用しない手は無い!


「「「「「お!? おお──っ!」」」」」


 馬鹿な男どもは俺じゃなくて女のパンツに注意が行ってるな!

 この隙を逃す俺じゃない!


「マッド・フィールド!」


 こんどは泥沼を作り出す土魔法である。

 女のパンツに気を取られた悲しき男が何人か飲まれた。


「うわあああ!? 足が!」


 騎士団は俺の泥沼を見てあわてて離れた。


「陣形が乱れたな! バーカ!」


 俺は下半身が沼った男共を足場にして空いた中央を悠々と突破した。


 さらに俺は泥の範囲を広げて騎士たちを牽制する。

 案の定お上品な騎士様は泥が嫌いのようだった、近づくのを躊躇している。


「ふ⋯⋯泥にまみれる覚悟もない奴に俺が負けるかよ!」


 そんな俺について来ているリニアがギョッとして見ていた。


 ⋯⋯ドン引きされているんだろうか、俺は?

 まあ卑怯で品の無い戦い方だしなあ⋯⋯でもしゃーない、あまり怪我人を出したくないしな。


「師匠もしかして⋯⋯?」


「まあな! 子供の頃からの戦法さ!」


 人間は服を汚すことを本能的に避ける、そこにつけ込む隙が生まれるのだ!


 だが俺は全裸で泥と戯れた男だ!

 今更泥で汚れようが気にせん!


「⋯⋯嘘だ。 そんなのって無いよ」


 なんか激しく落ち込んでいるリニアだった。

 すまんな、師匠がこんなダサい戦い方で! もっとカッコよく俺も戦いたいのだがこういうのが俺の流儀なんだ。


「⋯⋯イリーナさんになんて言おう」


 ⋯⋯? なんだリニア、俺の雄姿をイリーナに報告する気だったのかもしかして?

 そこはほら⋯⋯適当にカッコいい武勇伝に脚色してくれよな。


 そんな事を考えていると、ようやく覚悟を決めて泥をものともせず突っ込んでくる女が居た。


「へーやるねえ⋯⋯でも遅かったな」


 この泥はオトリ⋯⋯そして時間は十分に稼いだ!


「プラント・バインド」


 この魔法は急成長させた植物の蔓をあやつり対象を捕縛する!


「きゃあ──!?」

「イヤ──!!?」


 俺のあやつる植物がこの場の全員を捕獲した。

 植物の蔓が体を締め付けて動けなくなっている。

 男どもは雑に捕獲したが、女の方はなかなかエッチになっている。


「これはもしかして伝説の亀甲縛り!?」

「どこで覚えたんだ、そんな言葉?」


「いや、エロ本で⋯⋯」

「⋯⋯お前アレ、読んだのか?」


 そういやリニアの寝室は倉庫だった。

 そこに俺のエロ本コレクションを置きっぱなしなのを完全に忘れていたぜ。

 仕方ないだろ! だってエロ本よりイリーナの方がエロかったんだし⋯⋯。


「あんなの置いとく師匠が悪い!」

「だからって読むなよな⋯⋯」


 俺はへこんだ。

 しかし戦場で油断するほど俺はお人好しじゃない。

 油断したフリをした俺は、死角からの奇襲を難なく避ける。


「あとはお前だけか⋯⋯」


 どうやら1人だけ取りこぼしがあったらしい。

 その女騎士は『じ~』と俺を見つめた。


「⋯⋯もしかしてこの戦い方はジーク先生ですか!?」


「なんでバレた!?」

「バラすなよ、おっさん!」


 ヤベえよヤベえよ、どうする? なんか知らんが正体がバレちまった⋯⋯。


「私です! お忘れですか! ロザリアです! 先生の教え子の!」


「⋯⋯ロザリア? ああ! ロザリアか! 久しぶりだな! 元気だったか!」

「知り合いっすか?」

「ああ、俺の元教え子」


 ロザリアは魔法学校の教師時代の教え子である、それがまさかここで再会するとは⋯⋯。


 だからか⋯⋯このロザリアはとくに俺の陰魔法の授業を真面目に受けていた優秀な生徒だった。


「さっきの霧を吹き飛ばした風はお前だったか」

「先生の教え⋯⋯ですから」


 ロザリアは珍しく平民の俺の授業を素直に受けていた可愛い生徒だった。

 その教えをちゃんと実践してくれたのか⋯⋯教師冥利に尽きるなあ。


「でもちょっとじっとしてろ」

「先生なに⋯⋯を!?」


 どうやら魔法が効いたみたいだな。

 俺の今使った魔法はシャドウ・バインドである。

 影の位置を固定して、その相手の体の動きを封じる魔法だ。


「先生、待って!」

「ちょっと姫と会うだけさ。 危害は加えないよ、絶対に」


 こうして騎士団を完全に無力化した俺は悠々と姫の馬車へと向かう。


「強いっすね、師匠」

「手加減してんだぜ、これでも」


 なにせ相手に怪我人を出していないんだからな。

 そんな大胆不敵な俺だったがこの馬車の扉を開くことに躊躇する。

 しかしそう長く時間もかけれないし⋯⋯。


 えい⋯⋯ままよ!


「また⋯⋯助けに来ましたよ。 ファイリーナ姫」


 俺は精一杯カッコつけて、その扉を開いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る