023 この賢者めに攫われていただけますか、お姫様?

「また⋯⋯助けに来ましたよ。 ファイリーナ姫」


 そう気取って話しかける俺だった。

 そこに居たのは紛れもないイリーナだった。

 全身ロープでぐるぐる巻きになっていて、床に雑に転がされていた⋯⋯かわいそうに。


「⋯⋯ジーク様ですよね? なんでパンツなんか被って⋯⋯って、それ!? 私のパンツじゃないですか!」

「⋯⋯え!? マジで!」


 俺はあわてて覆面を取ると、その覆面はパンツだったのだ。

 しかも見覚えのある猫の絵の入ったイリーナのパンツだ!


「しまった~!? 覆面と間違えてパンツ被ってたのか、俺!」

「ぷ⋯⋯ぎゃはははは!」


 大笑いするリニアだった。


「リニアてめえ! 知ってたんなら早く言えよ!」

「いやーなかなか言い出せないっすよ。 おっさんシリアスにパンツ被って真面目に戦闘モードなんだから」


 恥ずかしい⋯⋯俺はこんなものを被って騎士団相手に無双をしていた変態だったのか⋯⋯。


「⋯⋯その、私のパンツをなぜジーク様が被ってらっしゃるのですか?」


 怖いよイリーナ⋯⋯ごめん。


「もう一度会いたかったからだ、

「⋯⋯私のこともう知っているのですね。 もうイリーナとは呼んでくれないのですか?」


「どっちで呼べばいいのか俺にはよくわからん。 ファイリーナ姫として扱うのか、それとも全てを捨てたイリーナとして扱うのが正しいのか。 ⋯⋯どっちがいい? 俺は別にどっちでもいいけど」


「ファイリーナとしての私ではジーク様と添い遂げることは叶いません。 私をイリーナとしてここから連れ出してくれると言うのですか? ジーク様は」


「それをイリーナが望むのなら、この賢者ジークに出来ないことは無い」


 そして俺はイリーナのロープを切る。

 このロープが食い込んでイリーナのおっぱいが強調されてエロいのなんの!


「ほらおっさん。 楽しんでないでさっさとイリーナさん助けないと」

「べつに楽しんでるわけじゃ⋯⋯ないし」

「ローププレイがお好きならば今度して差し上げますから!」


 うん⋯⋯やっぱりイリーナはイリーナだな。

 あの頃の純粋無垢な少女だったファイリーナ姫はもう居ないのだろう⋯⋯ちょっとだけ寂しいな。

 でも今のイリーナはこんなに一途でエロいし⋯⋯まあいいかそれで。

 そんな事を考えながら俺はイリーナの拘束を解いたのだった。


 そして今のイリーナを真剣に見つめる。

 こうして見るとやっぱり美しいお姫さまだった。

 この俺には不釣り合いな高嶺の花だ⋯⋯でも。


「ファイリーナ姫。 この賢者ジークに攫われてはいただけませんか? 全てを捨てたイリーナとして俺と一緒に」


「はい⋯⋯連れて行ってください。 このイリーナを攫って、ジークお兄ちゃん!」


 お兄ちゃんか⋯⋯懐かしいな。

 昔助けた時の幼いファイリーナ姫はそう俺を呼んでいたな。


「はは、お兄ちゃんか! あんがいイリーナもまだまだお子様だな」

「さっきのは無しで! 連れてってください、ジーク様!」


 恥ずかしがるイリーナはやっぱり可愛かった。

 こうして見ると面影が残っている、ファイリーナ姫だった頃の。


 まったくイリーナのおっぱいの魔性に俺の目が曇っていたようだな。

 そうでなければもっと早くにこの真実に気づいていただろうに罪深いおっぱいめ!

 全ての責任はイリーナの大きくなったおっぱいのせいだ、そう決めた!


 俺はそう谷間の深いつみぶかいイリーナのおっぱいに罪をなすりつけるのだった。


「その⋯⋯私も一緒でいいかな? イリーナさん⋯⋯」


 普段の図々しいリニアとは思えない控えめな声だった。


「リニアも一緒に? ⋯⋯まあいっか、その方が楽しそうだしね」

「楽しくなればいいけど。 ⋯⋯あとでちゃんと話すけど、ごめんなさいイリーナさん!」


 リニアが何を詫びているのかわからない俺とイリーナだった。




 だがこれ以上ここに留まる事は出来ないな。


「さあ行くか」

「はい、ジーク様」

「うん、師匠!」


 だがそんな俺たちの前にそいつは現れた。

 数名の部下だけを引き連れて馬に乗って現れたのは⋯⋯ルドルフだった。


「⋯⋯よう、ルドルフ」

「ジーク。 ⋯⋯こんな事だろうと思っていたよ。 来てよかった」


 まあ長い付き合いだしなルドルフとは、俺の行動を読めてもおかしくないか。

 そんなルドルフは俺を見た後、馬から降りてイリーナに話しかける。

 そして地に膝をついて言った。


「ファイリーナ姫。 ご無事で何よりでした」


「⋯⋯ゲイスコット伯爵。 その私⋯⋯ごめんなさい」

「俺もすまんルドルフ! お前の嫁とまさかこんなことになるなんて!」


 こんな俺たちをルドルフはじ~と見る。


「⋯⋯確認するがジーク。 2人はお付き合いしている⋯⋯で、いいんだな?」


「えっとその⋯⋯」

「そうだルドルフ! この女は俺のものだ!」


 俺はハッキリとそういった。

 たとえ友との別れになろうとも誤魔化す気は無かった。


「ジークはわかった。 ではファイリーナ姫は、ジークを愛しているのですか?」


「⋯⋯はい。 子供の頃からずっと愛してきました」


「⋯⋯そうでしたか。 ならこのルドルフは、姫に謝罪しなければなりません!」

「謝罪?」


 か、イリーナにはわからんだろうな⋯⋯。


「本当はファイリーナ姫と結婚するはずだったのは、そのジークだったという事です」

「どういう事ですか、ゲイスコット伯爵!?」


「私の姫との婚姻を賜った武勲は、そのジークの手柄を奪ったものだからです」

「⋯⋯奪った? ジーク様の手柄を、あなたが?」


 イリーナのルドルフを見る目に怒りが見えてきた。


「言っとくがイリーナ、俺も同意の上での話だから」

「⋯⋯どういう事なのですか、ジーク様?」


 俺とルドルフはその真相を話すことにした。


「このルドルフの領地は、北の魔の樹海と隣接するこの国の国境だ」

「まあ正確にはその樹海も領地だとこの国は主張しているけどね」


 でも人間が手出しするには危険すぎる領域なんだよな。


「今から1年前にその樹海から凶悪なドラゴンがやって来た」


「⋯⋯知ってます。 お父様が言ってました! ⋯⋯そのドラゴンを倒した英雄と私を結婚させると言いだして。 ⋯⋯つまりそれがゲイスコット伯爵じゃなくてジーク様だったの!?」


「そういう事です、ファイリーナ姫」

「この卑怯者! ジーク様の手柄を奪って、この恥知らずめ!」


「落ち着けイリーナ! 俺も同意というか俺が頼んだんだルドルフに! 俺の名を出さずにルドルフの手柄にして欲しいって!」


「何故ですか! ジーク様! そんな事しなければ普通に私と結婚出来ていたのに!?」


「結婚⋯⋯出来てたと思うかルドルフ?」

「まあ無理だろうね」

「だよなー」


「それって師匠が平民だから?」

「まあそうだな」


 この国は基本平民を見下しているからな⋯⋯貴族共の選民意識は根深い。


「ルドルフみたいなのは例外中の例外さ」

「僕だって子供の時に、ジークと友になっていなかったら今も傲慢な貴族だったさ」


 初対面の時のルドルフはけっこうムカつく奴だったのは確かだ。

 森で狩りをしたいと駄々こねる貴族のワガガマ息子、それがルドルフだった。


「信じられないっす。 そんなに仲いいのに?」

「子供の頃、森でジークに救われてね⋯⋯それが出会いさ。 それ以来、市井の者にも見るべき者が敬意を払うべき者も居ると知っただけさ」


 ホントにルドルフは変わったな。

 傲慢に俺に命令するおぼっちゃまから親友へと。


「俺はファイリーナ姫の誘拐を助けた褒美で王都の魔法学校へ入学した。 でもそこで思い知ったのは本当の貴族たちによる平民への差別意識だった」


「その⋯⋯申し訳ありません」


「べつにイリーナが謝る事じゃないさ。 この国が長年抱えて積み上げてきた因習なんだからさ」


 その時、俺たちに近づいてきたのはロザリアを始めとした王宮騎士団たちだった。


「先生の言う通りです。 私たち生徒たちは先生が平民だという理由だけでまともに授業を受けようとはしませんでしたから」


 よく見たらロザリアだけじゃない、この騎士団には何人か元俺の教え子たちが居た。

 ⋯⋯みんな立派に成長してたんだな。


「先生の教えは正しかった。 悪人は卑怯だって教えてくれたのに⋯⋯それを生かせなかったです」


「師匠の事、卑怯な悪人扱いですよ」

「うるさいリニア」


 まあお姫様誘拐事件の犯人だ俺は、悪人だよな⋯⋯。


「⋯⋯まあいろいろ嫌なものを見て来たわけだ、俺は。 だから今更また手柄を立てて王様と会うのが嫌でな。 あの優しかった王様なら俺を褒めてくれるだろうけど周りの貴族が⋯⋯な。 それでルドルフに頼んだんだ『俺の代わりにドラゴン倒したことにしてくれ』って」


「⋯⋯じゃあ本当に、ドラゴンを倒したのはジーク様なんですね!」


「まあな。 でも領民の手柄は領主の手柄だろ? まさかこんな大事になるとは思わなくて⋯⋯すまなかったイリーナ」


「ひどいです! そのせいで私! 他の人と結婚させられるところだったんですよ!」

「ごめんよイリーナ」


 この光景を騎士団の連中は黙って見ていた。

 なにか思うところがあったのかもしれない。


「ファイリーナ姫、そしてジークに提案がある」

「なんだルドルフ?」


「我々と一緒に王様の元へ行ってもらえないだろうか? 堂々と結婚したいだろ? 僕にいい考えがある」


 俺はルドルフを信じることにした。


 そして俺はかつて逃げ出した王都へとまた戻る事になった。

 イリーナを嫁に貰うために!

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