024 ジーク決意の王都帰還!

 俺はルドルフを信じて再び王都へと行くことにした。


 それにロザリアが言うにはすでに早馬が先行して、ファイリーナ姫発見の報告書が届けられているとの事だ。

 今からその早馬を見つけて止めることは難しい⋯⋯なのでファイリーナ姫の生存は王にバレることはもう止めようがない。


 こうして俺はルドルフや、かつての教え子たちが所属する騎士団と共に王都へと行くことになったのだ。

 ⋯⋯あんまりいい思い出の無い場所なんだがな。




「ところでジーク先生、ああいった植物のバインドを敵が使用した場合はどう対処すればいいのでしょうか?」


「そうだな⋯⋯氷系魔法で凍結させると壊れやすいし、完璧に凍らなくてもその動きは遅くできるぞ」

「なるほど⋯⋯」


 俺の王都までの道のりで一番話したのは、かつての教え子でもあるロザリアだった。

 この子は俺の教師時代から素直に俺の指導を聞く生徒だった。

 今でも今回の敗北の原因を知り、対策に努める努力家で俺も気に入っている。


 たしかロザリアは俺が教えた時は12歳くらいだったから今は18歳くらいだろうか?

 ずいぶんと背が伸びて、胸も大きくなったなあ⋯⋯。

 そんな事を思いながら俺はロザリアのおっぱいアーマーを見ていた。


「うう⋯⋯ジーク『先生』を取られたぁ⋯⋯」


 そうイジケルのはイリーナだった。

 なんでもリニアが先に俺の事を『師匠』と呼ぶようになったもんだから自分は『先生』と呼ぶと決めていたらしい。


「そうは言ってもなイリーナ、ロザリアたちの先生だったのはもう5年も前の話だからな」

「でも~私にもなにか特別な『私だけのジーク様の呼び方』が欲しいの~!」


 めんどくさい⋯⋯。

 でもこれはこれで愛されている証だしなあ⋯⋯どうしたもんか?


「じゃあイリーナさんは師匠の事『アナタ』とか『ご主人様』とかじゃどうです?」


 どうです? じゃねえよリニア!


 ⋯⋯ナイスだ!

 いい! 実に良い⋯⋯。

 このイリーナに『ご主人様』とか呼ばれる⋯⋯たまらん!


「リニア! そういう呼び方は夜だけで、もっと昼間用の呼び方を⋯⋯」


 なんだよ昼用って!?

 しかし昼間は淑女で夜は積極的とか⋯⋯それも捨てがたい。


「じゃあイリーナ。 『お兄ちゃん』でいいんじゃないか? 俺は妹居なかったし、密かにそう呼ばれる事に憧れはあったんだ」


 リニアが「うわ⋯⋯キモ」とか言ってやがる。

 いいだろ! 男のロマンなんだ妹ってのはよお!


「でも『お兄ちゃん』じゃなんか恋人って感じじゃないし! もう私はオトナなんです! それがいつまでも『お兄ちゃん』はヘンなんです!」


 ⋯⋯残念、もうイリーナの『お兄ちゃん』は聞けないらしい。

 かなり残念だイリーナよ。


 そんなくだらん話を俺たちがしているとルドルフが話しかける。


「ちょっといいかな?」

「ああすまん。 王都に行ってからの話だな?」

「まあそうだ」


 ここから王都まではこの馬車の旅で10日くらいだ。

 その間に今後の対策を立てる事にしている。


「それでどうするんだルドルフ?」


「それなんだが⋯⋯幸運と言っていいかわからんが幸いにもファイリーナ姫の葬儀はもう終わっている。 このまま死んだことにするのは簡単なんだ、むしろ生きていた方が手続きがめんどくさい段階に来ているハズ」


「そうなのか?」


 俺にはよくわからん、ファイリーナ姫が生きていたらみんな喜ぶと思っていたんだが?


「ジーク様、私は王位継承権は最下位に近いお飾り姫でしたがそれでも私に取り入って甘い蜜を吸おうという派閥はあったんです。 小さいですが⋯⋯」

「当然その派閥は今頃、別の派閥へ乗り換えてる真っ最中だよ」


「うわー最悪っすね⋯⋯そんな時にイリーナさん生きて戻ったら⋯⋯」

「関わりたくねえ⋯⋯」


 俺は心底思った。


「王の個人的な思いではファイリーナ姫の生存を発表したいだろう。 しかしその結果の大混乱を予想すると多少は躊躇すると思う、なにせもう葬儀も終わってるしね」


「なんか不思議な気分です。 こうして生きているのにもう私は死んだ扱いなんて」


「それでだ、元々王の意向は辺境貴族⋯⋯僕の事だが、国の治安を守る最前線との信頼関係を強化したかったはずなんだ」

「そのために私とルドルフ様を結婚させようとしたのですね、父は」


「まあハッキリ言ってが無くても、何かしらの理由で僕とファイリーナ姫との婚約はありえた可能性だったんだ」

「それを俺のせいで後押ししちまったわけか⋯⋯」


 複雑だな。

 つまりまとめると王とルドルフの関係強化が出来ればイリーナは用済みという事か?


「どうすればルドルフと王の信頼関係を作れる?」


 そう俺は核心を聞く。


「⋯⋯僕じゃない。 ジーク、君なんだ。 王との信頼を築くのは君でなければならない」


「俺が!? 無理だろ!」

「そんな事ありません! ジーク様は素晴らしい人なんです!」


 俺が王様に信頼される? できるのかそんな事が?


「ハッキリ言おうジーク! 今キミに僕の領地から消えられると困るんだ! だから君には貴族になって、僕の部下になって欲しい!」


「俺が⋯⋯ルドルフの部下に?」


「あと数年で魔の樹海で大規模なスタンピードが起こると僕は予想している。 その時にジークの力が僕には必要なんだ!」


「いやいや! べつに貴族に成らんでも協力するさ!」


「でもジークは居なくなるつもりだっただろ?」

「⋯⋯う。 確かに」


「こうなった以上僕は陛下に進言するつもりだ。 ジークを貴族に推薦して、ファイリーナ姫との結婚を認めて欲しい⋯⋯と」


「ルドルフお前⋯⋯つまり作戦は正面突破という事か?」


「陛下の性格からしてコソコソ策を弄すとむしろ心象が悪くなる。 ファイリーナ姫はもう死んでる扱いだしジークがどれだけ有能か知ってもらえれば可能性は高いと思っている」


「そうですよジーク様! ルドルフ卿よくわかってますね! 私あなたの事誤解してましたわ!」


 イリーナの奴⋯⋯手の平くるくるだなあ⋯⋯。


「でもさあ⋯⋯俺ってそこまで有能か? 対人戦なら絡め手で得意だけど、スタンピードなんか俺ひとりでどうにもならんぞ? デカい竜退治ならともかく」


「あんがい自分の価値は自分でわからないもんだな、ジーク」

「何の事だ?」


「まあ任せておけジーク。 イリーナさんと結婚したいんだろ?」

「したい」


「⋯⋯ジーク様♡」

「⋯⋯」


 その時リニアはなぜか目を背けていた。


「なんにしてもルドルフ。 俺はお前を信じているよ」

「そう言ってくれると嬉しいよ、親友」


 俺とルドルフは互いの拳骨をくっつけ合うのだった。




 そして10日間の長い馬車の旅も終わり、ついに王様との謁見の日がやって来た。


 すでに王様はイリーナが生きていたことを知っているはずだ。

 その王様に俺は「イリーナを俺に下さい! お父さん!」をしないといけないのか⋯⋯。

 今すぐ逃げたい。


 だがもう逃げるわけにはいかないな。

 思えば俺の人生は困るとすぐに逃げていたような気がする。


 でもそれは俺がひとりだったからだ。


 これからはもっと強くならないといけないんだ。

 イリーナと結婚してふたりで生きていくためなら、貴族だろうがなんだってなって見せるさ!


 そう固く決意する俺はついに⋯⋯。

 王と、イリーナの父との10年ぶりの再会をするのだった。


 でも王様が⋯⋯もしも俺の事覚えてなかったらどうしよう。

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