025 王様との面会。 ⋯⋯そして

 王様との面会は謁見の間とかでなく王の執務室にて行われた。

 これは事前にルドルフがそうして欲しいと王に伝えた結果だった。

 つまりこの王との面会で話す事はごく一部の者しか知らないという事になる。


 そんな王の前でイリーナはフード付きのマントを外し、その顔を見せた。


「おお! ファイリーナよ、よく生きておった!」

「お父様!」


 そう抱きしめ合う王とイリーナだった。


 その感激の再会をしばし俺とルドルフは見届けた。

 なお⋯⋯リニアは居ない。 くそー羨ましい⋯⋯。


「ルドルフ! そしてロザリア小隊長! よくやった! よくぞファイリーナを連れ帰った、褒めてつかわすぞ!」


 そう王は上機嫌だった。

 ⋯⋯この機嫌がいつまで続くか不安だ。


「しかしルドルフよ、なぜファイリーナが生きていることをまだ内密にせねばならん?」


「⋯⋯それにつきましては王に説明させていただきますがその前に。 ⋯⋯こちらの人物を王は覚えておられるでしょうか?」


 そうルドルフはロザリアの隣で膝をついてかしこまっている俺の紹介をする。


「⋯⋯覚えておるぞ。 ジークだったな」

「はい! ジークでございます、王様!」


 驚いた! 俺に惚れていたおませなファイリーナ姫ならともかく、王様が俺の事など覚えていたとは⋯⋯。

 正直感激だった。


「娘の命の恩人を忘れるなどありえんよ」

「王様⋯⋯」


 そう俺に微笑む王だった。


「しかしなぜジークがここに居る? この件に関係しておったのか?」


「行方不明だったファイリーナ姫を今まで保護していたのがこのジークだったのです、陛下」

「なんと! そうだったのか!」


 そんな驚き喜ぶ王の表情がすぐに険しくなった。


「お父様、私⋯⋯崖崩れで馬車から投げ出されて、そのあと森をさ迷い⋯⋯そしてゴブリンの集団に襲われて⋯⋯うっうっ⋯⋯」


「なんと、まことか!?」


 いや嘘は言ってないけどさ⋯⋯。


「そして全身ドロにまみれた私をジーク様が見つけて助けてくれて⋯⋯うっうっ⋯⋯」


「そんな⋯⋯ファイリーナが⋯⋯そんな目に。 かわいそうに、辛かっただろう」


 そう優しくイリーナを抱きしめる王だった。

 なお王が見えないイリーナの口元はニヤリと笑っていた。

 ⋯⋯イリーナさあ。


「そんな私のけがれをジーク様がやさしく清めてくれたのです、この3か月間の間ずっと」


「⋯⋯⋯⋯おいジーク?」

「何でしょうか王様⋯⋯」


「貴様、ファイリーナに何しやがった!」

「何もしてません王様! 毎日お風呂に入れて一緒にご飯食べてたくらいで!」


「じゃあ3か月間もなぜ報告に来んかった!?」

「俺は、ファイリーナ姫だって気づかなかったんです!」


「嘘つけ! こんな可愛いファイリーナを忘れるとかありえんじゃろう!」

「王様! 俺が姫を最後に見たのは10年以上前ですよ! わかるわけないでしょ!」


「なぜじゃ!」

「10年前の可憐なロリ姫様がこんなセクシーダイナマイトな女性になってて見分けつきますかね!?」


 そして王様は黙った。

 さらに王はチラっとイリーナを見ると⋯⋯。


「⋯⋯そうだな。 そりゃしかたないな」


 納得してもらえてよかった。


「それにお父様、私はファイリーナとは名乗りませんでしたから。 ゴブリンにけがされた私が王家を名乗る事など⋯⋯うっうっ」


「そうか⋯⋯辛かっただろうにファイリーナよ」


 そうあっさりとイリーナに丸め込まれる王様だった。

 ちょっとだけこの国が心配だ、王様がこんなに騙されやすくて大丈夫なのだろうか?


「それでねお父様。 私はもうルドルフ様に嫁ぐことはできません」

「そうだな。 ⋯⋯すまないゲイスコット伯爵よ、こんな結果になってしまって」

「いえ、滅相もございません」


 ルドルフは見事なポーカーフェイスである。

 ⋯⋯ちょっとだけコイツが信用できないと思ったよ。


「そして陛下に進言することがあります」

「なんじゃ?」


「このファイリーナ殿下は私ではなく、このジークを愛しているという事です」

「⋯⋯」


 王は静かに俺を見る。

 俺は堂々とその眼差しを受け止めた。


「⋯⋯そうだったなファイリーナよ。 おまえ昔このジークと結婚するなど駄々こねておったなあ⋯⋯」

「お父様、覚えていたんですね」


「しかし儂はファイリーナの父である前にこの国の王だ。 お前の結婚といえど、この国の利益にしなければいかんかった」

「お父様⋯⋯」


「気にするなファイリーナよ。 お前はこのまま死んだことにしておこう、辱めを受けたと生き恥をかかせたくはないしな」


 見事に騙されているよな王様⋯⋯きっとイリーナがゴブリンにひどい目にあわされたと思い込んでいるんだろうな。


「じゃあお父様! 私ジーク様と結婚してもいいの!?」

「ファイリーナがまだジーク殿を愛していて、そしてジーク殿が今のお前を受け入れてくれるというのなら⋯⋯」


「お父様! ありがとう!」

「王様、俺! いや私は必ずやファイリーナ姫を幸せにして見せます!」


 そして王様は俺を見ながら涙を浮かべた。


「もうファイリーナは死んだんじゃ。 ジーク殿がどこの誰と結婚しようが儂の知るところではない。 ⋯⋯じゃが一度だけ言わせてくれ、ジークよ」


「はい王様」


「娘を頼む」

「⋯⋯はい王様! 必ずやその王命に応えて見せます!」


 こうして俺とイリーナの結婚が認められたのだった。

 そして王もファイリーナ姫からただのイリーナへと変わった娘を見送ったのだ。


 ここで話が終わりなら良かったんだけどなあ⋯⋯。


「ところで陛下に進言します」

「なんじゃゲイスコット伯爵?」

「このジークを貴族に推薦したいのですが⋯⋯」


 そのルドルフの提案に王は戸惑う。


「なぜじゃ? 確かにファイリーナを降嫁させるのならジーク殿に爵位も必要だっただろう。 だがすでに死んだ扱いのイリーナがジーク殿と結婚するのに爵位はいらんだろう?」


 正論もっともである。


「陛下それは、このジークの功績を見てもまだ言えますかな?」


 ルドルフの合図で執務室の扉が開き⋯⋯リニアが入ってきた!

 何でここでリニアが!?


「いや~、検閲に時間かかっちゃって大変でしたよ! 門番の人達仕事熱心なのはいいけど、もうちょっと融通ききませんかね?」


 なんて恐いもの知らずなハーフエルフなんだリニアは⋯⋯。


 そのリニアは大きな箱を台車に乗せて、この執務室に入って来た。


「ゲイスコット伯爵? なんじゃその箱は?」

「お見せしますよ陛下! これこそが、このジークの真の価値なのです!」


 ルドルフが開いたその箱の中見は俺の今まで作って来た魔道具の数々だった!


「これ俺の作った魔道具じゃないか! なんでここに!?」

「いや師匠コレ、私が好きにしていいんでしょ? 鍵くれたし」


 そういや蔵に仕舞っていたものばかりだなコレ。


「それで持ってきたのかリニア?」

「伯爵に頼まれてね」


 くそー! ルドルフの奴め!

 俺の知らないところでこんな手を打っていたのか!?


「これは⋯⋯なんなんじゃ!?」

「これはですね──」


 その数々の魔道具をひとつひとつルドルフとリニアが丁寧に王に説明していた。

 そしてみるみる王の顔が変わる。


「なぜこんなものが存在するのに、今まで誰も報告せんかった!」


 ちょっと怒っていた王様は⋯⋯。


「それはこの魔道具の開発者ジークが平民だったからですよ、陛下」

「むむむ⋯⋯そうか⋯⋯」


 そう俺を見つめる王様だった。


「ファイリーナ姫の事もありますが、これだけの才能を持つジークを平民のまま野放しでいいのですか陛下? もしも他国に引き抜かれるようなことがあれば⋯⋯」


「いかん! それは駄目じゃ!」


「そうでしょ陛下。 これこそが私めがジークを貴族に推薦する理由です」

「そうだったのか⋯⋯」


 そして王様は俺を見つめた。


「ジーク殿よ」

「はい、王様」


「この今までの功績は、この国の貴族に潰されていたのか?」

「まあそうです」

「⋯⋯そうか。 すまなかったなジーク殿」


 今日だけで何回王様に謝られるんだろう、俺?


「いいえ滅相もございません」


「⋯⋯儂はこの国の王として能力あるものを正しく評価せねばならん。 そこでジーク殿に爵位を与える事にする!」


「王様! 俺が貴族に!?」


 マジかよ⋯⋯。


「ジークよ! 貴族となって今後はこの国に仕えよ!」


 正直断りたい⋯⋯。

 俺はもっとのんびり暮らしたいだけだったんだ。

 余計な責任なんか背負わずにさ。


 でもイリーナを幸せにしたい。

 そしてこんな俺にルドルフやリニアは力を貸してくれた。

 それに応えなきゃ俺は男じゃない!


「はい陛下! 謹んでお受けします!」

「⋯⋯そしてイリーナも幸せにしてやってくれ」

「もちろんです陛下!」


 こうして俺はイリーナとの結婚を認められたばかりか爵位まで賜る事になったのだ。


 そしてイリーナが俺に抱きついてきた。


「おめでとうジーク様!」

「ありがとうイリーナ。 そしてみんなも」


 抱きつくとイリーナのおっぱいの弾力を思いっきり感じることが出来る。

 この為なら貴族だってやってやるさ俺は!


 そう思っていた時だった。


「⋯⋯ところでジークよ」

「何でしょう陛下?」


「おぬし⋯⋯3か月間もイリーナと過ごして本当に何も無かったのか?」


 まあ何も無ければこのイリーナの慣れたスキンシップは違和感だろうな⋯⋯。


「⋯⋯ほっぺにチューくらいはしました! 申し訳ありませんでした!」


 そう土下座する俺を見て陛下は⋯⋯。


「こりゃ孫の顔を見るのはまだ先のようじゃな⋯⋯」


 そうポツリと呟くのだった。

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