004 初めての夜(なにもなかった)

「あの⋯⋯ところでテストの結果は?」


 地上に戻り、ようやく大地を踏みしめたイリーナが不安げに聞いてくる。


「もちろん合格さ」


 ⋯⋯もっとあのおっぱいに顔をうずめて居たかった。

 だがしかし! ここで合格にしておけばまたチャンスはあるはずだ!


 いや⋯⋯そんな下心無しでも十分な素質を感じた。

 イリーナは才能がある!

 ⋯⋯すごい魔法使いになるに違いない。


 とりあえず2人で家に戻る。


「今日のところはもう遅いし、修行は明日からだ」

「はい、わかりました!」


 元気いっぱいだな。

 ⋯⋯俺にいっぱいおっぱいを見られたことは気にしていないんだろうか?

 ありがたい反面、男として見られていないのでは? という複雑な心境である。


 そして今日の夕飯はイリーナが作ってくれることになった。


「弟子としてお世話になるのですから、このくらいさせてください!」

「ああ頼む」


 料理なんか魔法でチョイチョイなんだが⋯⋯。


 しかし銀髪美少女が作る手料理か⋯⋯楽しみではある。

 そう思いながら料理の完成まで待つ。


 ⋯⋯長いな、ハッキリ言って非効率的だな。

 しょせんは焼いたり茹でたりして塩で味付けする程度で構わんのに、なぜこんなに時間をかけるのか?


「お待たせしました!」

「お⋯⋯おおっ!?」


 そこには見たこともないようなご馳走が並んでいた!


「これをイリーナが?」

「はい。 ⋯⋯ここのキッチンすごく使いやすくてビックリしました」


 この家のキッチンは俺が手を加えてオール魔道具化にしている。

 スイッチひとつで火力も自由自在だ。


 まあ俺自身は全然使わなくなったけどな。

 使うと掃除が面倒で、そのうち直接魔法で料理すればいいと気づいてしまったからだ。


「キッチンすごく綺麗で使いやすくて驚きました! ジーク様はお料理好きなんですか?」

「いや全然」


 料理が楽しい? なにそれ?

 人は生きるために食う。

 食えるように材料を加工するのが料理だ。

 そこになぜ楽しさを求める?


「⋯⋯それでは、お召し上がりください」


 裸エプロン姿で言ってほしいセリフだ。


「お前は? 食べないのか?」

「えっと、その私は弟子⋯⋯ですし」


「弟子だからなんだ? 時間の無駄だ、一緒に食うぞ」

「⋯⋯はい!」


 こうして俺達は2人で食事を済ませた。


 ヤバイ⋯⋯味がわからん。

 でもきっと美味かったんだと思う。

 これからもイリーナの手料理を食えるなら、それだけでも弟子にする価値があるのかもしれない。

 そう本気で思った。




 食事が終わり日も落ちた。

 後は寝るだけだ。

 早寝早起きが俺のスローライフスタイルだからな。


「じゃあそろそろ寝るか」

「⋯⋯は、はい」


 俯き顔を真っ赤にするイリーナ、なんだ? どうしたんだ?

 その時、俺は気づいてしまった!


「あ⋯⋯ベッドがひとつしかない」

「⋯⋯ひとつで十分なのでは?」


 イリーナは俺とは目を合わせずにそんな事を言う。


「そうだな⋯⋯じゃあイリーナは俺のベッドを使え。 俺はそこのソファーで寝るから」

「え? ええ~!? なんで! 一緒に寝ないんですか! 私たち!」


「そんなことするかよ⋯⋯」

「⋯⋯⋯⋯魅力ないんですか、私?」


 何を言っているんだ、この子は?

 イリーナに魅力? あるに決まっているだろう?

 もしもこんな子と一緒に同じベッドで寝たりなんかしたら俺は!

 何するかわからんだろう?


 絶対セクハラするに決まっている!

 うっかり手が滑ってそのおっぱいさわってしまうに違いない!

 それでイリーナは怒って明日にはここから居なくなるんだ⋯⋯。

 そんなの嫌だ!


 ⋯⋯でも一応聞いてみるか?


「じゃあイリーナは、俺と一緒に寝てもいい⋯⋯の、かな?」


「⋯⋯⋯⋯⋯⋯はい」


 おっしゃあああああ──!

 聞き間違いなんかじゃない! 俺は難聴じゃないからな!


「じゃあ! 一緒に! 寝ます⋯⋯か?」


 最後ちょっとヘタレた。


「そうしましょう⋯⋯」


 こうして俺とイリーナは2人でベッドインするのだった。




 緊張で胸が張り裂けそう⋯⋯。

 でも恥ずかしいのはイリーナも同じハズ⋯⋯。


「あの⋯⋯寝るときは裸⋯⋯の方がよろしいのでしょうか?」

「なんで?」


 何言ってんだこの子──!?

 普通パジャマだろ?


 ⋯⋯あ! この子のパジャマ無かった。


「⋯⋯まあ、そのままで構わんよ」

「そうですか、ジーク様は服を着たままがお好み⋯⋯と?」


 俺の好みってなんだ? 常識ってことか?

 まあ俺の好み趣向はたぶん普通じゃないだろうな。


「そのままの格好で構わんからもう寝るぞ」

「はい。 ⋯⋯その、よろしくお願いします!」


 ⋯⋯なにがよろしくなんだろう?

 ただ寝るだけなのに?


 そしてようやく2人でベッドに入った。


 そして明かりを消して俺は⋯⋯寝れるか!

 やべードキドキする!

 すぐ近くに人肌の熱源がある。

 さわろうとすれば触れられる距離に。


 手がお尻とかおっぱいに当たったらどうしよう? 事故で済むか?

 ⋯⋯イリーナは向こうを向いているようだ。


 今なら背後からあの豊満なおっぱいを揉みしだくことも可能だ!

 しかしそんな事をすれば、間違いなく俺は軽蔑されるだろう。


 セクハラ教師に弟子が付いてくるのだろうか?

 ⋯⋯逃げるよな、やっぱり。


 魔法学校時代でもそうだったからなあ⋯⋯。

 俺は教師時代に『セクハラ教師』と呼ばれていたからなあ⋯⋯。

 純粋に魔法を教えていたつもりだったんだが、俺の指導方法はどうやら一般とはかけ離れたものだと当時は知らなかったのだ。


 そういやどうしようイリーナの教育方針は?

 魔法学校的な普通の授業をするのか?

 それとも俺独自のカリキュラムを実行するのか!


 ⋯⋯究極の選択だった。


 俺独自の育成メソッドはちょっと問題があるからなあ⋯⋯絶対イリーナは引くだろう。

 そんな事を悩んでいる間に俺は⋯⋯寝てしまっていたのだった。




 気づくと、もうとっくに朝だった。

 すげー寝坊した。

 それだけ昨日は疲れていたんだろう。

 イリーナと出会って普段とはちがう1日だったからな。


「イリーナ?」


 となりを見たらそこにイリーナの姿は無かった。


 居ない?

 一瞬頭の中が真っ白になった。

 もしかしてイリーナなんて居なかったんじゃないのか?

 全ては俺のエロい妄想に過ぎなかったのではないか?


 俺はベッドを漁る⋯⋯。

 そこにはもう人肌の温もりなど残ってはいない。


「イリーナ⋯⋯夢だったのか?」


 だとしてもいい夢を見たと思おう。

 妄想でも、あのおっぱいは記憶に刻まれている。

 あの柔らかいおっぱいに顔をうずめたんだ、俺は!


 その時、部屋の扉が開いた!


「ジーク様、おはようございます」

「⋯⋯イリーナ! 居たのか?」


「もちろんです。 ⋯⋯ジーク様は昨夜はお疲れだったみたいで、朝食の準備が出来てます食べてください」

「⋯⋯ああ、そうする」


 夢じゃなかった、イリーナはここに居る。


 俺、がんばろう。

 この子を一流の魔法使いに育てるんだ、俺の手で。


 そう心に誓いながら俺は朝食を食べた。

 今度はちゃんと味がした。


「美味しかったよイリーナ」

「ありがとうございますジーク様」


 こうして誓いも新たに、ここにちょっとエッチな俺の魔法先生ライフが始まるのだった。

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