007 冒険者ギルドのミルとリニア
私はジーク様を見送った後、店員さんに話しかける。
「あの⋯⋯店員さんその⋯⋯(ゴニョゴニョ)」
「⋯⋯⋯⋯勝負下着ですね!(キラーン)」
「(コクコク)!」
「うふふ、素敵なお方ですものね。 これは気合を入れて選んで差し上げますわ」
こうして私はお洋服だけでなく夜の戦闘服も購入するのだった。
── ※ ── ※ ──
そんな事はつゆしらず俺は久々に冒険者ギルドの扉を開いた。
時間は昼間なので人気は無い。
これが早朝だと依頼の取り合いで、夕方以降だと素材の買い取りとかで大混雑なのでちょうどよかった。
「あの~、換金してほしいんだけど?」
「なんですかおっさん? アンタ冒険者? 見ない顔だね」
そう態度とおっぱいのデカイ生意気そうな若い金髪の受付嬢が居た。
新人かな? 1年前は見なかった顔だな。
まあ俺の顔を知らないのは仕方ない、俺はほとんどここには来ないからな⋯⋯。
「えっと⋯⋯ミルさん、居る?」
「今は席を外しているけど⋯⋯おっさんがなんでババアをご指名なんだよ?」
⋯⋯躾の行き届いていないガキだな。
なんて生意気な言葉使いだ、生意気なのはそのおっぱいだけで十分なのに⋯⋯。
「その、ミルさんに査定してもらいたい物があってね」
「あー何言ってんだかおっさんが! ババアは居ないから私が見てやるよ!」
⋯⋯ババアってさあ。
まあミルさんが年上なのは間違いないけどさあ⋯⋯。
「いやミルさんは俺の専属受付嬢だから⋯⋯」
「おっさんが!? あははは! ありえないっしょ!」
そうギルドに笑声が響いていた時だった。
「リニア! またあなたは! そんな下品な声で笑って! このギルドの品位を落とす行為です、気を付けなさい!」
「ちっ⋯⋯もう帰って来たのかよ、ババアが⋯⋯」
「聞こえてますよ。 それとお久ぶりですね、ジーク君」
「どうも、ミルさんもお元気そうで」
そう俺とミルさんは再会を喜び合った。
ミルさんはこの生意気な若い子にババア扱いされているが、見た目はすごく若い金髪の美少女だ。
なぜなら彼女はエルフ族だからである、なのでさっきの受付嬢の悪口もバッチリ聞こえていたようだ。
たいていのエルフは森に住む種族なのだが、ミルさんのように街で生活することを選ぶ変わり者も居る。
そういったエルフをシティーエルフと呼ぶ。
ミルさんはそんなシティーエルフの一人なのだった。
「今日は換金?」
「ええ、まあ⋯⋯急に入用になって」
「じゃあ見てあげるから出して頂戴」
このミルさんは10年以上前の、俺がまだ駆け出しだった頃からの付き合いで、その頃からまったく見た目が変わっていない。
こういうやり取りは懐かしいな。
そんな感傷にふけながら俺は収納魔法からいくつかのモンスター素材を出す。
「しゅ、収納魔法! こんなおっさんが!?」
収納魔法持ちはレアだからな、それで驚いたんだろう。
しかしリニアはもっと驚くことになる。
「⋯⋯これ、ロードアナコンダの皮でこっちはレッドグリズリーの毛皮!?」
「あいかわらず綺麗に剥ぎ取っているわね、ジーク君は」
「はは⋯⋯性分なんで」
その方が引き取り金額が上がるからな。
少ない取引で大金を得るテクニックである。
「アナコンダの皮が10で熊が22だから⋯⋯32万Gというところだけど、この美品なら40万で買い取るわ」
「ありがとうございます」
モンスターの倒し方ひとつでこれだけの金額の差が出るのだ。
「40万!? こんなおっさんが!」
おっさんで悪かったな。
「ところでジーク君、最近山にレッサーベヒモスが住み着いているんだけど討伐してくれないかしら?」
「それならコイツの事かな?」
俺はレッサーベヒモスの死体も出す。
これはついこの間、偶然出会って始末したモンスターである。
「これは⋯⋯片角隻眼で手配書通りね。 よし討伐確認っと⋯⋯」
「これの報奨金も貰えますか?」
「それの危険ランクはAだから⋯⋯50万Gですね」
「合わせて90万か⋯⋯しばらくは暮らせるな」
「もっと稼いでもいいのよジーク君は。 してほしい依頼がいっぱいあるんだから」
「いやいや! 後輩の稼ぎを奪う気はありませんよ!」
「まったくジーク君らしいわね。 待ってて、お金出してくるから」
そう言い残してミルさんは奥の方へ行った。
「⋯⋯あのオジサマ! 先ほどは失礼しました!」
さっきまでとは打って変わった媚び媚びな声である。
「まあ気にしないよ。 俺がおっさんなのはその通りだし、でも魔法職はおっさんでも強いことがあるから見た目で判断すると痛い目みるから気を付けな」
「⋯⋯はい」
そして若い受付嬢のリニアは会ったばかりの時の生意気な態度が消えていた。
そうしている間にお金を持ってミルさんが戻って来た。
「はいジーク君、コレ!」
「ありがとうミルさん」
「どういたしまして」
これで金策も終了だし、ここにはもう用はないな。
ちなみに今回の稼ぎの90万Gならイリーナの服が50セットは余裕で買える!
エロ本なら100冊くらいといったところだ。
エロ本は教会の目が厳しいご禁制の品だし高額なのだよ。
「じゃあミルさん、俺はこれで」
「ジーク君、何かあったの? どこか楽しそうなんだけど?」
さすが長年受付嬢をしているだけあって人間観察に優れているな。
「⋯⋯実は、弟子が出来ました」
「まあ! ジーク君が弟子を!」
「はは、まだ何も教えてないけど素質はあるんで、もしかしたらここに登録に来るかもしれませんね」
「なるほど期待の新人ね、楽しみにしているわ」
「そうなるといいんだけど⋯⋯」
「あなたなら出来るわジーク君、自信をもって」
「⋯⋯ありがとうミルさん」
こうして俺はミルさんんと別れて冒険者ギルドを後にしたのだった。
── ※ ── ※ ──
「あの母さん。 さっきのおっさん何者?」
「ここではギルドマスターと呼びなさい! ただでさえ縁故採用で肩身が狭いんだから」
「そんなのはわかってる! あのおっさん何者なの!?」
「彼の名はジーク、賢者よ」
「賢者!? ⋯⋯てことはこのギルドに在籍している唯一のSランクの『陰魔のジーク』ってあの人なの!」
「そうよ、このギルドの切り札なんだから⋯⋯もっと丁寧に対応しなさいよねリニアは」
「あのおっさんが賢者⋯⋯もっとジジイだと思ってた」
「たしかジーク君は今⋯⋯28歳くらいじゃなかったかな?」
「⋯⋯意外に若い!」
「そうよ。 10年もニートしていたリニアと同じ歳なのに、あんなに立派なんだから」
「⋯⋯今はちゃんと働いてるし」
「無理やり、私の、コネで。 だけどね」
「うぐう!?」
「リニア、わかってると思うけど⋯⋯ここでも戦力外なら今度こそは娼館に行ってもらいますからね」
「鬼! 悪魔! ババア! 酷い! それが可愛い娘に言う事なの!?」
「⋯⋯私の可愛い娘なら私の事を「ババア」なんて言わないわ。 ⋯⋯このクソガキが」
「でも娼館なんてイヤだよ!」
「そのイヤラシイ身体ならすぐ稼げるわよ、リニア」
「なに、僻んでるの母さん? 自分が貧相な身体だから!」
「⋯⋯クビにしてやろうか?」
「(フルフル)ここで働くの楽しーな!」
「なら真面目に働け!」
⋯⋯うう労働はヤダよ。
ああ、こんな美少女ハーフエルフを一生養ってくださる優しいお金持ち、何処かに居ませんかね?
⋯⋯さっきの人はジークか。
覚えとこう。
こんど会ったらちゃんと媚び売っておかないと!
そう私の寄生先ターゲットにあの賢者様をロックオンするのだった!
── ※ ── ※ ──
「ハックシュン! ⋯⋯誰か噂でもしているのか?」
俺は後にした冒険者ギルドで、そんなクソガキハーフエルフに目を付けられた自覚などまったく無かったのだった。
「さて店に戻るか、イリーナが待っている」
そう俺の足取りは知らぬ間に軽くなるのだった。
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