第17話 巨峰ォ

「あっ、二人とも見て見てっ! 滝があるよっ!」

 一朗は地図に目を落とす。

「ああ、これが吐竜の滝か。チェックポイントだ。先生がどこかに居るはず……」

 見れば近くの木陰に教師が待ち構えていた。

 向こうもこちらに気付く。

「お疲れ様。チェックするから地図を渡して下さい」

 言われた通り、地図にチェックサインを貰った一朗達は、ここで一度休憩を取ることにする。

 同じことを考える者は多かったようで、先に到着していたいくつかの班も、景色のいいこの場所で休憩をしていた。

 写真を撮る者、水に足を浸ける者、木陰に座る者。

 やはりというか、雪野は休むよりも水場に降りるタイプだった。

 靴を脱ぎ、滝壺付近の川の中ではしゃぐ。

「ひゃーっ!? 足が凍るくらい冷たいよっ!?」

 ……だろうな。

 ただでさえ冷たい山の水。

 ましてや四月の雪解け水なんて、氷水も同然だろ……。

「ねえ見てっ! ちょうど日が当たって滝に虹が掛かってるっ! 綺麗だねっ!」

 いや雪野の方が綺麗だろ――と言うのはもちろんはばかられた。

 代わりにひねくれた一朗の口からは反射で、こんな言葉が出てしまう。

「七色に光って、ドブ川に浮いた油みたいだな」

「もうっ! そういうこと言うーっ!? 虹のことそんな風に言う人始めて見たよっ!?」

「すまん……」

「でもちょっと面白かったから許すっ」

「許された……」

「ふふっ……ここからならすっごい滝の写真撮れそうだし、二人も見てないでおいでよっ!」

 川辺に腰かけていた一朗と鈴木が、揃って「無理無理」と手を振る。

「もうっ、楽しいのにっ!」

 水と戯れる、楽しそうな雪野を見てるだけで俺も楽しいよ。

 そう一朗は思った。

 しばらくして、満足のいく写真が撮れたのか、雪野が川から上がってくる。

「凄いいい感じの写真撮れちゃった! 見て見てっ!」

 どれどれと、一朗が立ち上がった時だ。

「あっ」

 よろけた雪野が真っ直ぐ一朗の胸めがけ、倒れながら飛び込んでくる。

「うぉっ!?」


 ポスッ! 


 タイミングよく、それを受け止めた一朗。

 両手で掴んだ雪野の小さな肩と、細やかな重みがとてもいとおしく感じる。

 見下ろすつむじまで可愛らしい。

 それに何より、雪野の小さな体には似つかわしくない、大質量の巨峰が腹筋の辺りに押し付けられていた。

 今俺の手の中に、雪野が……!! 

 しかもなんか、勃起しそうになるようないい匂いもするッ!! 

 これがフェロモン!? 

 バッと雪野がこちらを見上げ、至近距離で目が合う。

 大きな目は動揺の色を映しており、遅れて頬もほのかに色付き始めた。

 すぐに目線を逸らし、一朗と距離を取りながら雪野は謝罪する。

「ごっ、ごめんねっ!? 大丈夫っ!? 急に飛び込んじゃって、痛くしなかったっ!? 重かったよねっ!?」

「いや全然軽かったし。それより雪野こそ大丈夫か? よろけてたみたいだけど」

「それは平気っ! 足が冷えてて、感覚無くてうっかり石につまずいちゃっただけだから……」

「ならよかったよ」

「うん……」

 多少の気まずさを残したまま、休憩を終えた三人は再びゴールを目指して歩みを再開した。

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