第30話 ぱーりーぱーりー
まずは一朗が買ってきた、イチオシの栄養ドリンクをたっぷりと注いだ杯を三人で飲み干した。
初めの内、黒戸も雪野も揃って「なぜ栄養ドリンク……。おじさんぽい……」と怪訝そうにしていたが――。
「ぷはーっ! うん、いつ飲んでもうまいぜ! 栄養補給だけじゃなくて、ドリンクとしてうまいんだよな!」
そんな一朗とは対照的に黒戸と雪野は少し口をつけたきり、コップを持ったままでフリーズしている。
……あれ、好きじゃなかったのか?
一朗はそう考えたが、違った。
感動に打ち震えながら雪野が口を開く。
「これ……すっごく美味しいねっ! こんなに美味しいジュースだったんだ……。疲れた大人しか飲んじゃいけないものだと思ってたよ……」
「だろ? 人体に必要な栄養を、人間の舌が不味いと感じる訳がないんだよ! ってか雪野って栄養ドリンク飲んだこと無かったのか!?」
「うんっ! エナドリは飲んだことあったけど栄養ドリンクは初めて飲んだよっ!」
「珍しいな」
これに黒江も続く。
「ボクも初めて飲んだよ」
「お前もか!?」
「随分と美味しいんだね。機能的なだけかと思い込んでいたよ。まあちょっと鉄っぽい味が舌に残るけれど」
「なんだよ、意外だな、二人とも飲んだことが無かったなんて……。まだまだ買ってあるけど、どうだ?」
「おかわりっ!」
「ボクにも注いでくれないかい?」
「自分で注げよ……。まあ、テスト期間は世話になったしな! 飲め飲め二人とも! まだ沢山あるからな! つまみもあるぞ! オイルサーディンにあたりめに、サバ味噌缶に燻製チーズも! じゃんじゃんやってくれ!」
◇
「……」
「おいぃ……しゃいき君ー……わらひの注いらジューシュが飲めないってのらぁー?」
一朗は頭を抱える。
……嘘だろ。
こいつ栄養ドリンクで酔っ払ったのかよ……?
……どうしてこうなった。
楽しい会になるはずが、開始十分でなんだよこれ!?
一朗は知らなかった。
一%未満のアルコールは表記する義務が無いことを。
一朗は知らなかった。
栄養ドリンクの多くに、一%未満のアルコールが含まれていることを。
アルハラ上司と化した雪野は、ぐいぐいとコップを一朗の頬に押し当てた。
「あの、痛いんだが。コップがグリグリ当たってるんだが……」
「当ててんのぉ……! おらぁ……! 飲んれぇ……!!」
「……」
どうせ当てるならその豊満なお乳にして欲しかったぜ……。
「ってかイタタ、雪野ほんとに痛いから!?」
雪野が押し付けるコップに、黒戸の手が伸びる。
「こらこら、一朗が痛がっているだろう? その辺にしておきなよ」
「わぁっらよぉ……」と、雪野も黒戸には素直に従った。
「お前が居てくれて助かったよ黒――江ええええっ!?」
礼を言おうとした一朗の口から、驚きの声が漏れる。
だがそれも致し方無い。
というのも――。
「なに脱いでんの!?」
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