第31話 ラックエンチャントタイム

 ――なぜか黒戸は少し目を離した隙に、下着姿になっていたのである。

「いやお前まで酔ってんじゃねぇよ!?」

「全然酔ってないよ」

「全然酔ってないよ、キリッ! ――じゃねぇんだよ!? 素面の女は男の前で下着姿にはならねぇからな!?」

「だって暑いんだから仕方ないだろう?」

「暑くても普通は脱がねぇよ!? ってか暑さを感じてる時点で素面じゃないからな!?」

「一朗は難しいことを言うなぁ」

「何も難しいことは言ってないが!?」

「賢いねぇ」

「煽ってんのか!? いや酔っぱらってんのか……」

 ……にしたって。

 ちらりと目をやる。

 露になった白い肌。

 少年のように華奢な体だが、胸にはささやかでありながら、とても柔らかそうな膨らみがある。

 そんな違和感の大きさの分が、そのままギャップに繋がっていた。

 つまり――。

 ――エッロォ!? 

 目のやり場に困るぅぅぅッ!! 

「一朗は失礼だね。人と話す時は、そちらを見ながら話すものだよ」

「いやお前の裸も見ることになるけどいいのかよ!? ……まあいっか!」

 黒戸が正常な判断を下せなくなっていることを最大限に利用し、一朗は役得を享受することにする。

 よし、ガン見してやろう! 

 瞼の裏に焼き付くくらいにな! 

 そんな下心を見せた一朗を咎めるよう、雪野がその名を読んだ。

「さーき君っ!」

「はいっ!?」

 怒られることを覚悟した一朗だったが――。

「わらひも脱ぐーっ!」

「ちょっ!?」

 雪野がブラウスのボタンに手を掛ける。

 そして大質量のメロンがボヨンと露になった。

「あー涼しーっ」

 なんだこれ最高かよ……!? 

 状況は悪化の一途を辿っていく。

 色気の漂う紅潮させた顔で、雪野が言った。

「なーんか、ゆーき君の裸見てらら、変な気分になっれきちゃっら……」

「ボクもだよ栞」と、黒戸もノリノリだ。

 これは……。

 一体何がおっ始まってしまんだ……? 

 成り行きに任せ、情事(こと)を見守ろうと決めた一朗。

 だがここへ来て――。

「あれ……でもしゃいき君も居るのに、わらひは何を……」

 突然雪野が正気に戻りつつあった。

 しかし意外にも、黒戸はまだ混乱が収まらず――。

「一朗は友達なんだから、別に見られてもいいんじゃないか?」

「そうかなぁ……?」

 一朗もそれに乗っかる。

「友達同士なら裸を見せるものだよな!」

 しかし、それがよくなかった。

「やっぱりおかしいよっ!」

「あれ、ボクは一体何を血迷って……」

 二人を完全に正気に戻してしまったのだ。

「斉木君、あっち向いててよっ!?」

「……一朗のヘンタイ」

「ごめんなさいぃぃぃっ!!」


 ◇

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