第20話 誓い、脆い

「栞のこと、好きだろう?」

「ブーッ!?」

 オリエンテーション後初の登校日を迎え、黒戸と昼食を共にしている時のことだった。

 何の脈絡もないタイミングで黒戸がボソリと、そう訊ねてきたのだ。

 思い切り口に含んでいた牛乳を噴き出してしまうのも、無理はないだろう。

 一朗は狼狽した。

「す、すまん!? 俺が一度口に含んだ汚くて白い液体をお前の綺麗な顔にぶっかけちまって!?」

 逆に黒戸は冷静にハンカチで顔を拭きながら、一人納得する。

「……わかりやすく図星みたいだね。あと今の謝罪には語弊と悪意を感じたんだけど?」

 思い切りクラスメイトの目を引いてしまったので、二人は席を立って中庭にある飲み物の自販機前に場所を移した。

 周囲に人が居ないことも確認してから、一朗は訊ねる。

「……どこで気付いた」

「そりゃあ気付くさ。ふとした瞬間、君はよく栞のことを見詰めているからね」

「……そう……か。……だが安心しろ。俺にお前らの邪魔をする気は一切無い」

「それもわかってるよ。それにそもそも、邪魔なんてできない」

「……そうか」

「でも」と、不貞腐れながら黒戸は続けた。

「まさか栞のことをそういう対象として見ていたなんてね。……ボクのことはそんな目で見てくれない癖に」

「はあ? いや……はあ? なんでお前がジェラシーを感じてるんだよ……。お前のことをそういう目で見たら見たで迷惑がる癖に」

「それにだ」と、黒戸の愚痴は止まらない。

「オリエンテーション、随分と楽しかったみたいだね。聞いたよ栞から。お気に召したみたいだよ、一朗のこと。面白いって……。ボクにとっては退屈なイベントだったのにさ」

 なんだこいつ……。

 だからなんなんだ? 

 何が言いたい? 

 意図がさっぱりわからない。

 まさか、本当に雪野に嫉妬を……? 

 訳がわからないまま、一朗も言い分を述べる。

「……いや、雪野とは同じ班なんだから仕方ないだろ」

「話を戻してもいいかい?」

 いや、脱線させたのはお前だろ……。

 そう喉元まで出かかったが、なんとか堪えた。

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