第19話 強い誓い
オリエンテーションも終わり、帰りのバスの車内。
行きよりも確実に仲良くなった鈴木と話す気でいた一朗だったが、疲れからか彼はすぐに寝てしまうのだった。
運動が得意なタイプではなかったし、無理もないだろう。
そんな事情もあり、気付けば自然に雪野と他愛の無い会話をしていた。
「昔はこの辺りも一大観光スポットだったなんて、信じられないよな」
「閑散としてる今の方がよくないっ? より牧歌的でさっ」
「……かもな。でも――」
一朗は車窓から流れる町並みを眺めながら続ける。
「こういうメルヘンな建物のお土産屋なんかは、バブルとか田中角栄の時代の負の遺産みたいな光景だけどな。廃墟だらけだし」
「さっきのドブ発言といい、鈴木君ちょっと口が悪いよっ?」
そう釘を刺されたが一朗は構わず続けた。
「もはやホラー感漂ってるけどな、この寂れ方は」
「れ、レトロって言うんだよっ? そういうのは」
「一瞬口ごもったってことは、雪野もそう感じたんだろ」
「ちょっとだけホラーゲームのサイレントリッジ感あるなーって思っただけだよっ!?」
「それ雪野も大概だろ……ぶっ!」
「なんで笑うのっ!?」
「いや、ホラゲーやるの意外だなって思ったら噴いてた」
「ホラゲは乙女の栄養だよっ!?」
「いやさすがにそれは聞いたことねぇよ! ……ほんっと、雪野って意外性の塊だよな」
「もうっ、何それっ!?」
「いい意味でだから」
「そうなのっ? ならいいけど……ってうまく丸め込もうとしてないっ!?」
「惜しい、あと半巻きくらいで完全に丸め込めたのに」
「やっぱりそうだったっ!?」
「おもしれー女」
「ほんとっ!? ――ってそれ誉め言葉としてじゃないよねっ!?」
「バレたか」
「もぉーっ!?」
元気に話をしていた雪野だったが、しばらくするとすやすや寝息を立て、可愛らしい寝顔も晒すのだった。
……ほっぺぷにぷにだな。
触りてぇ……。
そんな考えを振り払うように一度深呼吸してから、一朗も瞼を閉じる。
……俺も眠るか。
そう思ったところで、隣から鈴木が話し掛けてきた。
「斎木君、凄いね……。雪野さんとあんなに仲良く話せて」
「……なんだお前、起きてたのか。……別に凄くないだろ。雪野はあの人好きのする性格だからな。あいつは誰とでもあんな感じだよ」
「それだけじゃないよ。斎木君は黒戸さんとも親しいじゃないか」
「ああ」
……まあ、そう見られるか。
「クラスに友達は居なそうなのに」
「やめろその事実は俺に刺さり過ぎる」
「……だから、これからも仲良くしようよ。非モテ同士さ」
「……そうだな、陰キャ」
「ひどい。学年のマドンナ達と仲良くなる方法教えてくれなきゃ許さない」
「ねーよそんな方法」
「連絡先交換しようよ」
「……ったく、しゃーねーなぁ」
こうして一朗に、クラスの男子で初の友達ができた。
実りあるオリエンテーションだったといえよう。
しかし大きな問題にも気付かされた。
改めて雪野のことを諦めきれていないどころか、心から好きであることを再認識させられたことだ。
せめて――と、一朗は考える。
せめて雪野のことが好きだというこの気持ちを、最低限雪野本人や黒戸にだけは隠し通さないとな……。
そう固く誓うのだった。
◇
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