第8話 ボーイッシュ下ネタOKサバサバ美少女JKとか反則だろ

 昼休み。

 入学当初、ぼっち飯を覚悟していた一朗だったが、昼になっても自然な流れでやって来る黒戸と、いつしか共に食べる形に落ち着いていた。

 最初はぼっちを回避できたと喜んだ一朗だったが――。

 未だ俺に女友達どころか男友達すらできないのは……。

 雪野とは違い、どこかミステリアスな、他人を寄せ付けない雰囲気を持っている黒戸。

 クラスメイトが一切俺に寄り付こうとしないのは、多分……というか、確実にこいつが絡んでくるせいだよなぁ……。

「……? どうかしたかい?」

「別に」

 複雑な心境ゆえ、そうぶっきら棒に答えながらも、一朗はペットボトルの蓋を捻る。


 プシッ! 


 実は一朗は校内の自販機には売っていない大好物のコーラを、登校時に通るコンビニで買っておいたのだ。

 ゴクゴクと喉を鳴らし、弾ける炭酸を胃へと流し込む。

「ぷはーっ! この喉越しが堪らないっ!」

 そんな姿を見た黒戸が怪訝そうに言った。

「……一朗、実は家でビールとか飲んでるんじゃないだろうね?」

「飲んでないわ!?」

「ならいいんだけど。……あっ」

「今度はなんだよ?」

「……ほっぺに米粒がついてるよ」

「マジ?」

「まったく、漫画じゃないんだから」

 そう言って黒戸は頬に手を伸ばして米粒を取ると、それを当然のようにぱくりと食べる。

「――ッ!?」

 マジか……。

 さっきの睫毛といい、やっぱこいつ男子との距離感イカれてるな!? 

 お前の方がよほど漫画的だっつーの!? 

 そんなんしてくれるボーイッシュ美少女とか……。

「……スキだ」

「は? 急になんだい?」

 ――ヤッバ!? 

 つい心の声が――ッ!? 

 一朗は慌てて言い訳をした。

「いや、今お前が俺の頬っぺたから米粒取る時、前屈みになったろ? 襟元から貧相な胸とブラが見えてたぞ」

「なっ!?」

「だから言ったんだよ。『隙』だってな」

 カァッと顔を赤くした黒戸は、襟元を押さえながらも納得する。

「……そういうことか」

「飯時にオカズを提供してくれるのは歓迎だが、オカズはオカズでも、今のは夜のオカズだな」

「……ふぅん、貧相な胸をオカズと認めるんだね? なら対価を支払って貰うよ」

 黒戸は有無を言わさず一朗の弁当箱へ箸を伸ばし、早くも対価を回収した。

「ちょっ!?」

 ひょいと、揚げ団子を口へ放り込む。

「……んんっ。これ、魚か鶏のつみれを揚げたものだと思ったら、摺り下ろした蓮根をお団子にして揚げてあるのか。サクサクもっちりで美味しいね」

「そりゃそうだろ俺の好物だからな!? 数少ないメインディッシュをよくも……!?」

「あはは! 今度一朗のお母さんに、ボクの分も作ってくれるように頼んでくれよ」

「なんでだよ!?」

 ……まあ友達がうまいって言ってたのを伝えたら、喜んで作るだろうけど。

「……なんだい? 無遠慮に人をじっと見詰めて……。もう返してって言われても返せないよ。それとも、もしかしてボクの顔に何かついてる?」

「形のいい目と鼻と口がついてるな」

「……からかってる?」

「いや、なんつーかさ、お前みたいな美少女がこうやって仲良くしてくれてんのって、実はかなりの奇跡だよなーって、ふとそう思ったんだよ」

「……ふぅん、悪い気はしないね。ならこの美少女と居られる時間をもっと噛み締めたまえ」

「調子に乗んな。タイプとは言ってねーぞ」

「違うのかい?」

「そうとも言い切れない」

「優柔不断だねぇ」


 ◇

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