第7話 お漏らしマン爆誕
一郎は気になったことを訊ねる。
「ところで雪野は黒戸のこと知ってるのか? そんな口振りだったけど」
「同じ東中だったから知ってるよっ」
「へえ」
初耳だな……。
「凄く綺麗で目立ってるしねっ」
「そりゃそうか」
……まあ、目立ってる度合いで言ったら雪野の方が勝ってるけどな、俺的には。
「斎木君はどこ中だったの?」
「俺? 南中」
「そっかぁ! でも南中の人ってあんまり居ないから寂しくなっちゃうね?」
「そうでもないよ」
「あっ」
「察し……ってか? そうだよ、そもそも同中の友達少ないんだよ」
「そ、そうなんだ、なんかごめんね? 部活とか、きっと色々忙しかったんだね?」
「いや、特には」
「……えっと」
「ああごめん、コミュ力お化けの雪野さんでも返答に困るか」
グッと、雪野がサムズアップしてみせる。
「大丈夫、もう私が友達だよっ!」
「可哀想な子扱いやめろ!」
「ぷふっ!」と、雪野が失笑した。
この流れなら、試しにジャブくらいいけるか……?
流れに任せ、一朗は冗談めかして本音を吐露する。
「……それにどうせなら、雪野とは友達以上の関係がよかったなぁ」
さあどうだ!?
どう出る!?
雪野の返事は早かった。
「ウケるっ!」
ウケたー。
めっちゃ流されたー。
試しとはいえ、一応の告白だったのにあっさり玉砕したー。
だが、ショックは少ない。
なぜなら正式な告白ではないのだから。
そう一朗が自分に言い聞かせていると、雪野が短く声を上げる。
「あっ」
ん?
雪野の視線の先には、移動教室から戻ってきた一組の生徒達が廊下の角から現れた。
先頭に居た黒戸がこちらに気付く。
その瞬間だ。
「あ、あんまり話してたら斎木君おっきい方我慢してるのに悪いよねっ!? じゃあねっ!」
雪野はそう言うなり、慌てた様子で踵を返し、教室へと戻っていった。
……なんだ今の不自然な行動は……。
黒戸を見たから……だよな?
様子がおかしくなったのは……。
あと大きい方じゃなくて小の方なのに、訂正できなかった……。
黒戸の方を見れば、彼女は彼女でどこか憂いを帯びたような目を、雪野が入っていった二組の教室辺りへと向けていた。
「……」
一朗もピンと来る。
さてはこの二人、何かあったな?
早速、こちらへやって来た黒戸に話し掛けた。
「黒戸」
「やあ一朗。大きい方はいいのかい? 漏れる前にトイレに行くべきだと思うよ」
「同意だが、俺が我慢してるのは尿意だ!」
「ああ、そうなの?」と、至極どうでもよさそうだ。
こっちだってどうでもいい。
一朗は訊ねる。
「お前と雪野って同じ北中だったんだな」
「……ああ、そうだよ」
「絡んでるところを見たこと無かったし、意外だよ。中学の時になんかあったのか? 喧嘩した……とかさ」
「いいや? 雪野さんとは何も無いよ」
「本当に?」
「本当さ」
嘘は言ってなさそうだが……。
「俺の勘違いじゃなければだが、なんか微妙な距離みたいなのが無いか? お前ら」
「やっぱり、そう思うかい?」
……ということは、原因は黒戸ではなく雪野側にあるのか?
一朗はもう少しだけ、探りを入れてみることにした。
「……お前にその自覚があるなら、気まずさというか、微妙な感じになってる理由も本当はわかってるんじゃないか?」
「……さあ、どうしてだろうね」
そう言って黒戸が視線を落とす。
「……」
どうやらこれ以上深入りさせては貰えないようだと、黒戸の雰囲気から理解した。
でもこの二人、やっぱ何かありそうだよな……。
もしかして、こいつが桜の樹を燃やそうとしたことにも関係が……?
そこでチャイムが鳴った。
結局一朗はトイレに行きそびれる。
まあそこまでの尿意でも無かったしどうにかな――らなかった。
「く……」
保ってくれ俺の膀胱……!!
そして居るなら助けて下さい神様仏様ぁ!
死ぬほどの苦しみの中、神仏に祈りを捧げ、どうにかこうにか一時限を乗り切る。
少々パンツを湿らせたが、まあセー……普通にアウトだクソが……。
◇
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