第6話 雪野栞という少女
休み時間になる度、周囲に人が集まってくる雪野をよそ目に、黒戸もやって来なかったこのタイミングで、トイレに行こうと一朗は席を立った。
そうしてしばらく廊下を歩いていると、ポンポンと背中を叩かれる。
黒戸か?
いや、黒戸にしては叩く位置が低いな。
そう思いながら振り返ると――。
「えっ」
そこにはニコニコとこちらを見上げる雪野が居た。
「雪野さん!?」
その瞬間雪野はプクーと、餌を貯めたげっ歯類のように頬袋――ではなく頬を膨らませ、不満を露にする。
俺、なんかマズイこと言ったか!?
心当たりが無いまま動揺する一朗へと、雪野は言った。
「さんは付けなくていいって前に言ったのにーっ」
「あっ、そういう……ごめん、忘れてた。えっと、それで何の用かな?」
「用事が無きゃクラスメイトに話し掛けちゃダメなの?」
「いや、そんなことは無いけど……」
今の今まで取り巻きに囲まれてたはずだけど、それを振り切ってまで俺に話し掛けに来たってことになるよな?
……いやいや、勘違いするなよ!?
きっと何か、やっぱり理由はあるんだ!
そんなことを考えているところへ、雪野が訊ねてくる。
「ねえ一朗君、どこに行こうとしてたの? 次は移動教室じゃないよ?」
……なんだ。
俺がボケてどこかに行かないかを心配してくれたのか。
いい子だな―。
気の抜けた一朗は、つい黒戸と話す時のような返しをしてしまう。
「普通にトイレだけど、連れションでもするか?」
つい黒戸の時のような調子でセクハラ発言をした一朗は、すぐに我に返って青くなった。
マズッた!?
しかし次の瞬間――。
「いいねっ!」
まさかの雪野が、このボケに乗ってきたのだ。
すかさず一朗もツッコミを入れる。
「いやよくないねっ!? イカれてんのかよ!?」
これに雪野の表情が大きく綻んだ。
「あははっ! やっぱり思った通りっ! 斎木君って面白いねっ!」
「そ……そうか?」
そう素っ気なく答えながらも、雪野が楽しそうに笑ってくれたので一朗も満更ではない。
彼女はなおも続ける。
「そうだよっ! 面白いよっ! 中学校が違う黒戸さんとも仲良さそうだったから、きっと斎木君には人を惹き付ける何かがあるんだって思ったんだっ!」
「いや、完全に買い被りだから!?」
「んーじゃあそうかも?」
「あっさり!?」
「あははっ! ツッコミ早いねっ!」
「……」
……やばい楽しい。
雪野と話すのめっちゃ楽しい!!
やっぱ好きだなぁ……。
そう改めて実感しながらも、先程の雪野の発言で気になった部分について訊ねた。
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