第39話 偶然の再会


 この日の放課後は、久し振りの緑化委員会の集まりのある日だった。

 めんどくせー。

 などと思いながらも、ちゃんと出席のために二階にある五組の教室を訪れた時だ。

 一朗は先に着席していた委員会メンバーの一人を見て、思わず「あっ」と声を漏らす。

 野原早雪!? 

 そう、なんとこの場に野原が居るではないか。

 どうやら彼女も緑化委員だったことに気付かされる。

 ……マジかよ。

 存在感無さ過ぎて、前回出席した時には全然気付かなかったな……。

 だが、これはチャンス。

 黒戸からアドバイスを受けた通り、自然に野原と接触ができる数少ない機会だ。

 しかし――。

 ……ダメだ、話し掛けられねぇ。

 クラス順に着席しているようで、机の位置が遠く、自然に接触するのは困難。

 ひとまずは始まった集会の、議題やら様々な話やらに耳を傾け、委員としての活動に徹する。

 いずれはチャンスが巡ってくると信じながら。

 そしてその時がやって来る。

 会が始まって二十分が経った頃、三年生の代表が言った。

「えー今日はこの後、花壇に花を植える緑化のための実務活動をします。皆さん、下駄箱で靴に履き替えて中庭に集合して下さい」

 来たか!? 

 着席している室内と違い、外ならば自由度が増すし、接触の何度も下がる。

 早速外へ出た一朗は、その機会を窺った。

 もちろん緑化活動を行いながらだ。

 ビニールポットに入ったカラー、ペチュニア、クレマチス等の花の苗。

 それらを教師や委員会の先輩が見せた手本の通りに、花壇の空いたスペースに植え変えていく。

「ふぅ」

 ……結構楽しいな。

 一朗は裏の目的を完全に忘れ、思いきり土いじりを楽しんでいた。

 さあ、次は何を植えようかな。

 うきうきと、背後も確認せずに立ち上がろうした時だ。

 ドンと、腰が誰かにぶつかってしまう。

「あっ! すみませんっ!」

 そう謝りながら振り向いた一朗は、その相手を見て驚く。

「あっ」

 そこに居たのは怯えた表情をした、野原早雪だったのだ。

 野原――!? 

 うっかり名前を呼びそうになり、なんとか堪えて話し掛ける。

「あっ、ああ、ええと、シャーペン落とした子だよね? ほら、午前中に」

 野原の方も「あっ」という顔をし、おどおどとした表情や仕草とは不釣り合いな、やはり武士言葉で返事をした。

「その節は大変世話になり申した」

「お前も緑化委員だったんだな」

「左様」

 目的を忘れていたからこそ、自然に接触ができたといえよう。

 この偶然に感謝しながら、一朗は会話を続けた。

「あれか? 俺みたいにクラスのヤツらに緑化委員を押し付けられた口か? それとも花が好きとか?」

「そのどちらも……でござろうか」

「なるほどな。……あ、俺は斉木一朗って言うんだ、よろしくな。お前は?」

「拙者は野原早雪でござる。以後お見知りおきを、斉木殿」

「おう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る