最終章 三人の答え

第55話 いざ!

 自分の曖昧な現状と態度が、結果的に野原を追い詰める要因の一つになっていたことに気付かされた一朗は、自分を見詰め直す機会を設けた。

 そうして一週間が経つ頃、出した結論は――。

 ……やはり、絶対に手の届かない雪野はもう諦めるべきだ。

 ――というものだった。

 それだけではない。

 俺……雪野だけじゃなくて、黒戸のことも好きだわ……。

 よりにもよって、一番厄介な部分にも気付いてしまう。

 だからこそ、本来居心地がいい訳の無い、好きな人とその恋人の間に居続けることができたのだ。

 つまり一朗は好きな二人に挟まれる構図にあった。

 おまけに雪野と黒戸にも受け入れられている。

 だがだからと、百合の間に居座っていていい訳が無かったのだとも、改めて理解した。

 これこそ不自然過ぎるよな――と。

 ちゃんと、適切な距離を取らないと……。

 あの二人のことだ。

 俺の心境を吐露したとしても、別にこれまで通りでいいと、そう優しく言うだろう。

 だからこそ俺が、自分から距離をおかねば――! 

 本来あるべき、友人としての距離を――! 

 ――そう誓った一朗だが、それで迷いが振り切れた訳ではない。

 その選択でよかったのか、常に悩み続けた。

 その結果、黒戸や雪野から声を掛けられた際の返事もおざなりになり、対応も淡白に。

 奇しくも望んだ通りの距離が二人とできていた。

 そうして一人になる時間が増え、このことについてもう一度考える機会ができたからだろうか。

 一朗は自身の想いと、置かれている状況の本当のところについてようやく気付く。

 百合の間に挟まれてるなんて考えるからいけないんだ……! 

 これは自由恋愛の……恋の戦いなんだッ!! 

 雪野に好きだと伝えよう、もう一度はっきりと! 

 そしてちゃんとフラれよう!! 

 それに……黒戸にもだ! 

 キモイと思われてもいい! 

 だが、戦う前から逃げ出すことは違う! 

 野原だってなりふり構わず、こんな俺に告白してくれた! 

 あの姿勢は見習うべきなんだ!! 

 かくして、覚悟を決めた一朗。

 その矢先のこと。

 メッセージを通し、雪野と黒戸双方から呼び出される。

 何やら話があるようだ。

 ……丁度いい。

 俺の想いもそこでぶちまけてやるぜ。


 ◇


 週末、メッセージに指定された集合場所である、雪野宅へと一朗は向かった。

 ……なんだか久し振りな気がするな。

 懐かしさを覚えながら、雪野に迎え入れられ、彼女の部屋に入る。

「あっ、斉木君っ! どうぞ、上がってっ!」

 そこには既に黒戸の姿もあった。

「やあ一朗」

「……おう」

「まあ座りなよ」

「おう……」

 黒戸に促されるまま斜向かいに座ると、その逆側の斜向かいに雪野が座り、二人から挟まれる形となる。

 ……まさに今の俺達の関係そのものだな。

 そう一朗は可笑しくなってしまった。

 だが、それに対して二人の表情はどこか暗い。

 そんな風に感じていると、まずは雪野がこう切り出してくる。

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