第49話 お前もかー
帰宅後も一朗はあれこれと考えてしまい、夕食の味どころか何を食べたのかさえ覚えていなかった。
悶々とした気持ちのまま風呂に入り、一人で居たくて自室に向かった時だ。
不意にスマホが着信を告げる。
その相手は――。
……雪野?
珍しいな、メッセージじゃなくて電話をいきなり掛けてくるなんて。
妙な胸騒ぎを覚え、躊躇する気持ちもあったが、結局はそれを取った。
「……もしもし?」
「あっ、もしもしっ! ごめんねっ、急にっ!」
「いや、いいんだけど、何かあったか?」
「あっ、いや、別に何かあったって訳じゃなくって……えーと……」
どうにも歯切れの悪い雪野に、不信感が募る。
「用件を訊いてもいいか?」
「用件っ!?」
「何か用があったから掛けてきたんだろ?」
「用……そう、用はあって……」
「ならそれを話してくれ」
「……」
雪野は黙ってしまったが、いつ気が変わって話し出してもいいよう、一朗は静かに待った。
やがて彼女が話し始める。
「……私がさ、朝早く登校する時が結構あることは、斉木君も知ってるよね?」
「あ、ああ」
だから早く登校した時にばったり合うことが多かったのかと、一朗はすんなりと納得した。
だが、それがどうしたっていうんだ?
そう思っていたところへ、突然核心を突くような言葉が告げられる。
「……見ちゃったの」
「えっ」
まさか……。
そのまさかだった。
「今日の朝……ね? 斉木君が……その……野原さんから、告白されてるとこ……」
「あっ……」
よりにもよってぇ!?
もちろん雪野は一番見られたくない相手である。
きっぱりとかっこよくあの場で断ったなら、むしろ見られたかったが、あんな優柔不断なところを目撃されるとか……。
一朗が返事に窮していると、逆に雪野が重ねて質問してきた。
「あ、あのっ、それで、返事はどうするのかなって、気になっちゃって……」
「えっ」
なぜそれを、雪野が気にする必要があるのだろうか……?
「なんで?」と、つい一朗は質問に質問で返してしまう。
すると今度は雪野が口ごもった。
「えっ!? なっ、なんでって言われても……。えっと、その、気になっちゃう……から……? ……としか言えないよ……」
「気になるって……」
……それって。
おいおい……いや、そんな、さっきの黒戸に続いて、そんなことって……。
一朗はどうしても訊かずにいられない。
「……気になるって、どういう意味でだ?」
「どっ、どういう意味って……そんなのわからないよっ!!」
逆ギレ!?
まさかの返しに、一朗はそれ以上何も訊くことができなくなってしまう。
代わりに現時点での心情を話した。
「まあとにかく、現時点では野原の告白への返事は、断ろうと思ってるよ」
「そっ、そうなんだっ!?」
声だけでも、その上機嫌さが伝わってくる。
喜ぶってことはつまり……やはりそういうことなのか……?
「俺は意外と一途だからな」
「あっ……」
あっ……てなんだよ。
「迷惑かもしれないけどな」と、付け加えておく。
すると雪野はこんなことを言った。
「……迷惑だなんて、思ってないよ」
……マジかよ。
これ以上俺が勘違いしそうなこと言うのやめてくれよ……。
黒戸にだって悪いだろ……。
くそ、ズルいな雪野は……。
……いや、ズルいのは俺もか。
黒戸の預かり知らないところで、こんな……。
自己嫌悪に苛まれながらも、理性を保とうとする。
「とにかく、そういうことだから」
「あっ、うんっ。ごめんね? 変なこと訊いちゃって……?」
「いいよ。じゃあまた」
「うんっ、明日また学校でっ! おやすみっ!」
「おやすみ」
通話を切るとすぐに一朗はベッドへと倒れ込んだ。
元よりおかしかった関係が、更におかしなことになってきたな……。
嬉しさ半分、戸惑い半分。
脳の興奮から交感神経優位モードに入った一朗は、この日はなかなか寝付くことができないのだった。
そしてこの翌日、事件が起こる。
◇
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