第35話 エグめの下ネタ
本来であれば黒戸と雪野はその関係性が万が一にも露見しないよう、学校では接触をしないようにしているが、まだ誰も登校してきていない今はその限りではなかった。
黒戸と雪野は一朗の近くの適当な席に腰掛ける。
「うぅ……。おなかちゃぷちゃぷだよ……。これでもう臭くないかな?」
心配そうな雪野の口許に、黒戸が顔を近付ける。
「どれどれ」
その刹那――。
チュッ。
それは一瞬の出来事。
黒戸による雪野への不意のキスは、まさに唇を奪うという表現がぴったりだと、そう一朗に思わせた。
黒戸は前髪越しに雪野へ妖しげな視線を向けながら、飄々とした口調で言う。
「うん、もう臭くないよ。……ほとんど」
顔を真っ赤にし、潤ませた上目使いで雪野は言い返した。
「うぅ……ならまだ臭いんじゃん……」
「大丈夫、キスしなきゃわからないよ。それともボク以外にキスをする予定でも?」
「無いよっ!? 悠希君……好き」
「ボクもさ……」
もう一度唇を重ねようとした二人。
その世界の外に追いやられていた一朗が、口を開く。
「お前らなぁ……」
「あっ」と雪野が漏らし、ますます顔を赤くした。
「俺が居ることを忘れてないか……?」
だが、黒戸は――。
「わかってて見せつけたのさ」
「自重しろ!?」
「あはは!」
「ったく、お前は人をからかうことにかけては天才的だな。特技の欄に書けるぞ」
「特技なら他にもあるよ」
「どんな?」と聞いてから、一朗は失敗したと気付いたが、もう遅い。
黒戸は意地悪な笑みを口に浮かべ、満を持して答える。
「ボクの特技かい? ……栞に股を開かせることかな」
「生々しい下ネタやめろ!?」
「ふふっ、この程度で一朗はテンパっちゃうんだね」
「童貞で悪かったな!」
「そこまでは言ってないよ……って――」
そこで黒戸は何かに気付いたような素振りを見せた。
……なんだ?
一朗が見守る中、黒戸は言いにくそうに話し出す。
「……栞。下ネタを言ったボクも悪いんだけど、一朗も居ることだし、その股の辺りで手をもぞもぞするのは流石に止めた方が……」
「ぶっ!?」と、一朗は堪らず噴き出した。
こんなところで一人上手!?
しかし、すぐに雪野はこれを否定する。
「これは違うのっ!? かゆいんだよっ!?」
呆れながら黒戸は言った。
「……それでもだよ。トイレでしてきなさい」
「……俺の見て見ぬ振りにも限界はあるからな」と、一朗も続く。
「でもぉ……我慢できないのぉっ!」
「まあ、生理の時に痒くなるのはボクだってわかるけど……」
「違くて……」
「……?」
「昨日お風呂でね? 悠希を喜ばせようと思って、全部剃ったら痒くなっちゃって……」
――ッ!?
つまり今雪野は!?
一朗は思いきり、その姿を想像した。
「ぶはっ!?」
破壊力すげぇぜ……。
えぐめの下ネタも何のその。
黒戸はぶっ飛んだ告白をナチュラルに受け入れる。
「そうか、ボクのためだったんだね……。ありがとう栞、大好きだ」
「私もだよ?」
「……まったく、栞が可愛過ぎて死にそうだ――って、一朗も死にかけてないかい!?」
そりゃ想像しちまったからなぁ!?
「……すまん、今の情報は俺にとって致死量にも等しいというか……」
「な、なんかごめんね斎木君っ!?」
「い、いや、いいさ、むしろご馳走様というか、オカズというか……」
「平気ならいいんだけど……。でもこれで、悠希君とお揃だねっ! つるつるーっ!」
「ぶはぁっ!? 更なるオーバーキルやめろぉッ!? わざとなのか!?」
黒戸が頭を抱えながら苦言を呈した。
「……栞、ボクの個人情報までお漏らしするのはやめてくれるかい?」
「あっ――そうだよねっ!? ごめんねっ!?」
「お漏らしはベッドの上だけにしてくれよ?」
「……うん」と、雪野が頬を染めて恥じらいを見せる。
いや「うん」じゃないんだよ!?
これだからッ!!
女共の下ネタはぁッ!?
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