第51話 鈴木、動きます

 ――確かに騒動は数日で収束した。

 だが残ったものがあまりにも大き過ぎた。

 もしも黒戸と雪野が接触する場面でも見られたなら、それ以前に二人のどちらかがこれまでと違う動きを少しでも見せたのならば、再び周囲が騒然となることは請け合い。

 教室内でこれまで通りを装う二人へと、一朗は交互に目を向ける。

 あえて訊くようなことはしてないが、きっとあれ以降、こいつらまともに会えてないんだろうな……。

 自分のことのようにやるせない。

 そんなことを考えていた一朗に違和感でも覚えたのか、黒戸が訊ねた。

「どうかしたかい?」

「ん? いや……」

 ……モヤモヤするなぁ。

 平気そうな黒戸を見るのもきついものがある。

 どうにかしてやりたいが、どうにもできねぇ……。

 なんとかならないものか……。

 もう何度も悩みに悩み抜いたが、思い浮かばなかった解決法。

 だがこの時一朗の脳内で、逡巡してきた幾つもの考えが一つの方法を導き出した。

 ……いや、あるんじゃないか? 

 俺にできることが……。

 ……そうだよ! 

 だったら、こうしてやればよかったんだ!! 

 様子を見てから行動に移してもよかったが、一朗は即動く。

 黒戸と雪野には自然な反応をして貰いたかったので、これからやろうとしていることは話さないでおいた。

 一朗はあえて、クラス中に聞こえるよう、声を張ってこう言う。

「ああもう、なんか気持ち悪いんだよ最近のこのクラス空気感!」

 当然、クラス中の視線が一瞬でこちらに注がれた。

 突然のことで、黒戸も驚いた様子で訊ねてくる。

「ど、どうしたんだい一朗?」

 ……いいね、その自然な反応。

 一朗は態度にも言葉にも、苛立ちを露にしながら話した。

「あの相合い傘の一件以来、お前と居ると色んなヤツらの視線感じて気分悪いんだよ! それにお前も雪野も、変に意識してる感じが伝わってきてそれもまたこっちは気持ち悪くて嫌なんだわ!」

「な、なんかごめん……」と、申し訳なさそうに謝罪した黒戸を突き放す。

「謝んなよ! 別にお前も雪野も悪くないんだから!」

「えぇ」と黒戸が戸惑う中、一朗は椅子から立ち上がり、同じく動揺している雪野へ語り掛けた。

「雪野」

「えっ!?」

「お前もこのまんまじゃ気持ち悪いだろ?」

 そう訊ねると、狼狽しながらも雪野が頷く。

「う、うんっ……」

「あんなイタズラ気にせず、この際逆に黒戸と仲良くしてみたらどうだ? そもそもお前ら、同じ中学なんだろ?」

「そう……だけど……」

「別に嫌い合ってるとか、確執がある訳じゃないんだろ?」

「それはそうだけどっ」

「ならいいじゃねぇか。……それにだ。普通に考えてもしあのイタズラに目的があるんだとしたら、人気者二人への嫉妬から迷惑を掛けてやりたいとか、どうせそういうくだらない理由だろ? ――だったら、そんなもんに乗ってやる必要は無い。むしろ人気者同士仲良くして、見せつけてやればいい。犯人が僻むくらいにな。……知らねぇけど」

 これに岩田明美も同意した。

「斉木の言う通りじゃない? 言い方はあれだけど、ウチもそう思う! マジ犯人のヤツ、ユキノンに変な言い掛かりつけるとか許せないよ!」

 更に意外な人物が、これに続く。

「……確かにそうだよね。人気者のトップ二人を貶めるような内容だし、明らかに不自然だったよね……」

 鈴木お前……!?

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