第26話 のろけ超えてもろけ

 そして放課後勉強会二日目。

 この日も一朗は雪野宅を訪れていた。

 雪野が意気込む。

「今日こそちゃんと勉強するからねっ!」

 一方一朗は別のことが気になっていた。

「……で、なんでお前まで居るんだ?」

 その視線の先、一朗の斜め右に座る黒戸が言い返す。

「彼女の家に彼氏が居ちゃあ悪いかい?」

 この通り、今日は黒戸も参加していたのだ。

 彼女は続ける。

「ボクだって栞と一緒に勉強したいからね」

 もっともな理由だった。

「まあそうだよな。……ってかさ、こうなってくると俺かなり邪魔じゃね?」

 すぐに雪野が反論する。

「そんなことないよっ!?」

 黒戸もだ。

「うん、そんなことはない」

 一朗は二人の優しさに、じーんとしてしまう。

「お前ら……優しいんだな……」

「……違くって」と、雪野。

「え? 何が違うって?」

 雪野に代わり、黒戸が答えた。

「ボクら二人だけだと、きっとすぐに勉強以外のえっちなことを始めちゃうからね。一朗が居た方が逆に身が入るんだ」

 そのストレートな発言に、雪野はあたふたする。

「悠希君っ!? ビブラートに包んでっ!?」

「えっちなことをしたくなっちゃうんだ~」と、黒戸はビブラートを効かせた。

 雪野は目を泳がせ「あわわ、あわわわ」と、もはや言語を忘れている。

 そんな中、一朗は「チッ」と舌打ちした。

「下ネタかよ……。くっそ……。あー羨まし過ぎて血管キレそう……。あと雪野、ビブラートじゃなくてコンビナートな」

「そうだったねっ!? コンビーフだったっ!?」

「そうだよ(意味不明)」

 黒戸の唐突な下ネタで正気を失った雪野の混乱は、しっかりと一朗にまで伝播していたのだった。

 一体百合同士のえっちはどんなことはするんだろう? 

 そんな妄想と股間が爆発しそうになるのをなんとか堪え、一朗は黒戸に苦言を呈する。

「……ったく、急に何を放り込んでくれてんだお前は?」

「ごめんごめん。照れる雪野が可愛くてさ」

「もぉっ!?」

「あははっ! それに一朗の反応も思った通り面白かったしね」

 そう黒戸は悪びれずに言った。

「お前ってヤツは……」

 さすがの一朗も呆れてしまう。

「……黒戸って意外と下ネタ言うタイプなんだよな。綺麗な顔して……驚きだよ」

「まあ、ボクのキャラ的に違うっていうのは理解しているよ。ちゃんとTPOも弁えてるしね」

「俺はそれを弁える相手に含まれてないのかよ」

「……? 何を言ってるんだい? 当たり前だろう? 友達なんだから」

「――ッ!?」

「むしろTPOを弁えてるからこそ言ったのさ」

「……キザなヤツめ。よくも照れずにそういうことが言えるな……」

 まったく、こっちが赤面しそうだっての……。

 まあ、そういうところも憎めないんだが……。

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