第19話

 そう細目を細める男の笑みは、優しさがあるでも愉快さを感じるでもなく、どちらかといえば興味深い好奇なものを見て愉しむようなものがあった。そんな細身の男を見て、紫色の瞳のまま、王は目を細めて鼻を鳴らしていた。

「……お前が気に入っても、俺は気に入らんな」

「えー、じゃあボクにどうしろと? 王に仕えなくちゃボク職もないし家に帰れないし」

 己の主であるにも関わらず、平気でタメ口を使い呆れるように肩をすぼめる男は、従者らしからぬ態度だ。だがしかし、それがこの男の素なのであろうことも覗えた。

 無礼な従者を横目で見るような立ち位置を取り、王は口の端を歪めて薄っすらと微笑んだ。

「お前が本当に使える者であるかどうか、見せてもらおうじゃないか……。『ボゥ……ウリュウメイカ』」

 途端だった。生意気な従者の体が急に光りだした。そしてその体からギリギリとなにかが無理矢理動くようなきしむ音がして、細身の男のその皮膚に変化が現れていた。

 白く骨ばった皮膚にザワザワと吹き出してくるのは青緑色した鱗のようなもの、細い指には鋭い爪が生え始め、顔にもあの鱗と、緑色の髪の隙間からヒレのような触覚が伸び始めていた。

「……! 体が勝手に……⁉」

 その変化に、当の本人のウリュウは目を細め、自分の体を見て真顔になっていた。そんな従者の様子に驚くこともなく、冷然と言い放つのは闇族王のミズミだ。

「俺は正直に答えろ、と言ったはずだ。お前が持つ本当の力も見せてもらおうか」

「うわーすげー。ミズミ、これ何したの?」

 そんな様子をしゃがむような体制で見上げ、興味深そうに目を丸くするのは王の側近のハクライだ。従者に起こった奇妙な変化に動揺してあたふたするカラスとは対照的、呑気にその様子を見あげて見学する気満々である。

「見ての通りさ。名前からこいつの本性を暴いてみたのさ」

 相棒に一言答え、王は口の端を歪めるようにして意地悪い笑みを浮かべて従者に言った。

「俺達の本性も知ったんだ。逆にお前の本性も見せてもらってもよかろう?」

 その言葉に、徐々にその本性を現しつつある男は、長く鱗にまみれた尻尾をひらりと振りながら真顔で目を細めて呟いた。

「……名前一つでか……。まさかこのご時世にエンリン術を使う人が居て、しかもそれがボクの主の王様で、その上ここまでの腕前とは……」

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