第28話


 もてなしにと案内された一室では、ご馳走の山がテーブルいっぱいに出された。もともと喰族という食欲の強い一族の血を半分引く男である。食べることは当然好きだった。彼の食事の間、鬼族王とその娘、つまりは鬼族の姫と、数人の召使いが彼をもてなしていた。

「ハクライ殿はよく食べますな。見ていて気持ちがいい食いっぷりです」

「うん、こちらこそ、美味しい料理ありがとう」

 城主の言葉に、長髪の男はご機嫌で答える。そんな男にあれこれと料理を取り分けながら、説明しているのはフワフワなウェーブのかかった茶髪を束ねた美しい年頃の娘だ。

「ハクライ様、こちらはこの土地で育てた野菜のスープです」

「うん、ありがと、美味しい」

「こちらは魔物の花兎のステーキ……柔らかいお肉が特徴ですの。これは……私が作ってみたんです。……お口に合えばいいのですが……」

と、心配そうに男の顔色を窺っている娘に、ステーキに噛み付いた男はニコニコと微笑む。

「美味しいよ。料理上手だね。えっと……たしか……」

「私、レキアと申します」

 少しだけ頬を赤らめて自己紹介する娘に、長髪の男は頭をかきながら答えていた。

「あ、そうだったね。レキア、いいお嫁さんになるよ」

「あ、あ、ありがとうございます……」

 たちまち頬を真っ赤にして礼を言う娘に、実の父親はソワソワと男と娘を交互に見て、落ち着かない様子だ。

「お、あ、う、おほん……その……ハクライ殿は……そう言えば、ご結婚されていないのでしたかな?」

 急な話の振りに、娘はハッとしたように顔を上げ父親を見るが、問われた男は落ち着いた雰囲気で頷いていた。

「あ、はい。まだ」

「そうでしたか。その……ご結婚は考えておられるのですかな?」

 その問いかけに、少しばかりはにかんだような笑みを浮かべて、男は答えた。

「いずれはーって思ってはいるけど、今んとこはまだ……です」

「お相手などは……既におられたり……」

「お父様、失礼ですわ、そんな突っ込んだ話……」

 矢継ぎ早に話を振る父親に、娘が頬を赤らめたまま制するが、長髪の男は特段気にする様子もなく穏やかに答えていた。

「あはは、そんな気にしなくていいよ。……あ、いいです」

 その反応に心底ホッとしたように、鬼族王は身を乗り出していた。

「良かった……。……ハクライ殿。ここは少し……真面目なお話をさせていただいても……いいですかな」

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