第29話


「……え、俺でわかることならいいんだけど……」

と、長身の男は少々不安げに首を傾げて見せる。闇族王の側近であるハクライだったが、正直外交的な話は苦手だ。基本的に闇族王ミズミの相棒として共に戦うことの方が多い彼にとって、小難しい話をされても理解できないだろうという不安があったのだ。しかし、彼のそんな思いは杞憂に終わる。鬼族の城主は続けた。

「実は……そろそろ我が娘レキアも結婚を考えているのです」

「……あ、そうなんだ。よかった、難しい話じゃなくて。レキアは? 結婚したいの?」

 あまりに単刀直入な質問に父親の方は硬直するし、娘の方はあたふたと手にした布巾を握りしめながら言葉に迷う。

「え、あ、はい、その……えっと……考えてはおります……」

「そっか、良かったね。きっとレキアならいいお嫁さんになれるから、結婚したい人すぐ見つかるんじゃない?」

などとニコニコしている男に、娘は赤面し父親の方は深いため息だ。

「それが……縁談は幾つも持ちかけられておりますし、私も娘に何人か紹介を試みているのですが、なかなか……」

 その言葉に、切れ長の瞳を本気で丸くして長身の男は呟くように言った。

「え、意外。すぐ見つかりそうなのに」

「そうなのです……。因みに……ハクライ殿から見て、娘はどうですかな?」

 問いかけられて、男は首を傾げた。

「ん? どうって?」

「いや……結婚の相手として、いい相手になりえるかということです。なかなか縁談が進まないものですから……参考までに……」

 問いかけて探るような目をする父親を一度見て、長髪の男は話題の娘の方に視線をずらした。男がじっと見ていると、娘の方が耐えられずに頬を赤らめ俯いていた。

「うーん……レキア可愛いし、きっとお嫁さんにしたいって人は結構いると思う」

 素直なその感想に、父親のみならず娘の方もほっと安堵の表情だ。勿論娘の方は更に頬を赤らめたことは言うまでもない。

「そうですか……それなら良かった。ハクライ殿だったらどうですか、娘の様な女性を嫁にもらうというのは」

「お父様っ」

 こちらも率直すぎる問いかけに娘の方が慌てるが、問われた男はまたしてものほほんと答えていた。

「うーん……お料理上手だし、家に帰るのが楽しみになりそう」

「わはははは、そうですか、それはよかった」

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