第27話
闇族王から頼まれた品を持って、長髪の男は鬼族王の城へと出向いていた。距離にして普通の人間なら数日はかかる道のりだが、行きは気楽にと、ウリュウが転送魔法を準備してくれたのだった。長髪の男が鬼族の城に出向けば、挨拶もそこそこに鬼族王キエラが直接城の中の案内に出向き、彼の訪問を喜んだ。
「おお、まさかハクライ殿が直々にいらしてくださるとは。ミズミ様は?」
「やることがあるって、俺だけ荷物頼まれた……です」
相変わらず敬語を使い忘れそうになる男の無礼など微塵も気にせず、城の主はご機嫌で男を客室へと通した。
「ところでハクライ殿、今日は何用でありましたか」
ソワソワと落ち着かない男に、長髪の男は頼まれた品と一枚の紙切れを手渡した。
「ミズミに頼まれて、お礼届けに来た。後なんか手紙もつけてた……です」
鬼族王は闇族王からの手紙と聞いて、御礼の品の受け取りもそこそこに、一瞬表情をこわばらせてすぐにその紙を開いた。無言で食い入るように手紙を見ていたが、最後まで読むとほっとしたような表情に変わり、ニコニコと男に微笑んだ。
「……ミズミ様……まさか既に手を打って今日のこの段取り……相変わらず鋭い御方だ」
「うん……」
と答えながら、きっと鬼族王が訪問した時に彼の心を読んだのだろう、と男は推測する。勿論、今の発言だけでは話の意味はわからないが、しかし敢えてそこは口に出さずに飲み込んでいた。
「では、ハクライ殿。お荷物を届けて頂きありがとうございます。せっかくです、以前お話した美味しいものでも召し上がって行きませんか?」
「え、いいの?」
その申し出に男は目を輝かせた。急な嬉しい話題にうっかり敬語を忘れてしまったほどだ。
「勿論です。遠路はるばる来ていただいたわけですから。今日は一日ゆっくりして行ってください」
嬉しい申し出だったが、男は一瞬躊躇した。
「あー……でも、帰り遅いとミズミが怒るかも」
すると、城主は想定どおりと言わんばかりの余裕の表情で頷いた。
「ご心配いりません。ミズミ様がハクライ殿の帰りは遅くなっても大丈夫だと、今日は泊めてほしいとこの便りに書かれておりましたから」
「へぇ、ミズミが?」
素で驚くが、嬉しい言葉には変わりなかった。男は鬼族王に勧められるまま、部屋を移動していた。
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