第26話
「…………そうか……」
男の声色にどことなく寂しげな空気を感じ取ったのか、質問した方も静かに答えた。そんな相棒の雰囲気を感じ取って嬉しそうに一度だけ笑うと、すぐに男は首を傾げた。
「……でも、何だってそんな事急に聞くの?」
「……少し気になっただけだ。……それよりハクライ、明日鬼族王の城に行ってくれないか」
「え……急だね」
「届けてほしい荷物があってな。先日の貢物の礼だ」
突然の話の振りにもかかわらず、長身の男は疑問一つ持たずに即座に頷いていた。
「うん、構わないけど。俺一人で行くの? ミズミは?」
「俺は一人でやることがあってな」
「また術使うの?」
「まあそんなところだ」
「ふーん」
ミズミの言い分に対して、特に何も感じ取っていない様子で、男はつまらなそうに口をへの字にしていた。そんな男をしばし見つめていたミズミだったが、一つ小さく息を吐くと前かがみになるようにして机から離れた。
「話はそれだけだ。……夜分悪かったな」
「ミズミ」
唐突に呼び止められ視線だけ向ければ、長髪を揺らしてベッドから立ち上がり、自分に歩み寄る男の姿が見えた。見上げるように視線を向ければ、男は長い黒髪を肩から零すようにして首を傾げた。
「……何かあった? 少しミズミ、寂しそう」
思いがけない言葉に、長いまつげに縁取られた緑色の瞳が大きくなる。言われた方は一瞬不意を突かれて言葉に詰まるが、視線を外して静かに答えた。
「……何もない。気のせいだろ」
「……ならいいんだけど。……あ、ミズミ、夜遅いしこのまま俺のベッドに」
「誰が寝るか。一人で寝ろ」
「ちぇー」
相変わらずのやり取りをして、ミズミは部屋の外に出た。扉を閉めれば城の廊下も薄暗く、細長い窓から月明かりが僅かに差し込むばかり。人気もなく飾りもない殺風景な黒い廊下は、妙に寂しげに見えた。
「…………寂しそう……か」
全く自覚はなかったが、もしかしたらそんな気持ちもなくはなかったのかもしれない。もしも自分が進めようと思っている方向に話が進めば、少なからずこの相棒の男は、自分の元から離れることになるのだから。先程の相棒の言葉に思わずため息が漏れる。
「俺のように心音が聞こえるわけでもないんだが……相変わらず……アイツはよくわからん……」
ため息交じりにそう呟きながら、茶髪の人物は自室へと向かっていった。
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