第22話 鬼の縁談に巻き込まれる


 それは他愛もない話のはずだった。

「もー、また怪我してる〜。そんなんじゃ、長生きできませんよ、スティラ様」

 闇族の大陸で好き勝手している強欲な者たちを、いつものように力業で抑えつけに来た闇族王とその側近たちは、この日も戦っていた。相変わらず敵を仕留めるのに全力で自分を顧みない主に、ため息交じりに細目の従者が苦言を呈す。すると言われた方の主、闇族王のミズミは、その細い髪をこぼしながら俯いて鼻で笑うほどだ。

「そもそも長生きする気もないがな」

「えー、そんな事言わないでよ」

 突然口を挟むのは、今しがた同じ様に敵を仕留めてきた黒髪の男だ。急な発言に言われた方が目を細めながら振り向けば、黒髪の男――王の相棒であるハクライ――はその長い髪を揺らすように首を傾げた。

「俺、ミズミが年取ってもずっと側に居たいし」

 相棒の発言に、ため息交じりに茶髪の人物は答えた。

「……俺は年取っても、ずっとこうやってお前にツッコミ返さなきゃいけないのか……?」

「うん」

「あはははは、スティラ様、ハクライといいコンビじゃないですか〜」

 二人のやり取りに従者は緑色の髪を揺らして笑うが、言われている本人は大真面目だ。

「俺、長生きしてね、いつか結婚して子ども持つのが夢だよ」

「いいねぇ、ささやかな夢」

 緑色の細身な男とそんなやり取りをして、黒髪の下でそうニコニコと笑う相棒に、茶髪の人物は少しだけ目を丸くしていた。そんな茶髪の人物に、黒髪の男は切れ長な目でまっすぐと見つめて問いかけた。

「ミズミは? どう? そういう生活」

 さりげない問いかけのはずだったのだが、問われた方はくるりと背を向け、ぶっきらぼうに答えていた。

「考えたこともない」

 えー、などと背後で男がぼやいている声を聞きながら、ミズミは物思いに耽る様な表情だった。


 それは数日前のことだった。

 彼らの住む闇族王の城の謁見の間に、客人が訪れていた。茶色の短髪に二本の角を隠した、体格のいい男とその従者たちだ。彼はこの闇族の四大種族の一つ、鬼族の民の長、鬼族王のキエラだった。その日は、鬼族王が闇族王に貢物を持ってきていたのだ。

「貴重な魔鉱石か……。この闇族の大陸では、魔法を使えるものは少ないからな。こういった品はたしかに助かる」

 貢物に珍しく穏やかな笑みを浮かべて礼を述べる闇族王に、鬼族の長はかしずくように頭を下げていた。その様子は、ただ立場故の態度には見えなかった。その動き、その声色から、鬼族の長が心底、闇族王に感謝している様子が覗えた。

「ミズミ様のおかげで、我らの民も強族の被害が抑えられていますから……。自警団の援助から始まり、奴隷狩りの商人の一掃、強族の侵入ルートの排除、先日は行方不明の自警団の救出など……助けて頂いてばかりです。これは心ばかりの御礼でございます」

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