第31話
「や、やはりミズミ様の元で、彼を支え続けるということなのですね……。でも……それでしたら、結婚してでも可能なことでは……」
まだ食い下がる娘の父親に、切れ長の瞳を静かに開いて男は微笑んだ。
「俺……既に相手は決めてるんだ。だから……ごめんなさい」
そう言って男は深く頭を下げるのだった。
長髪の男が闇族王の城に戻ったのは翌日のことだった。
「なんだ、思ったより早かったな」
闇族王の部屋に出向いて、先日の鬼族王の城への届け物が終えたことを報告すると、茶髪の相棒は少々驚いた表情をして出迎えた。
男の帰りが翌日になったのは、彼が自力で帰宅したからだ。行きで使った転送魔法は、彼を鬼族王の元へ送ってすぐに切れたので、彼が帰るには自力しか手段がなかった。宿泊もせず夜通し歩いて一日で帰れたのだから、この男の体力は並ではない。しかしそんな男の体力に驚くよりも、そそくさと用事を終えて帰ってきたこの男の態度に、茶髪の相棒は驚いているようだった。
「もう少し……キエラ殿の所にいるかと思っていたんだがな」
「うん、でも悪いかなと思って早めに帰った」
その言葉に、ソファに座りながら茶髪の人物はまたしても少し目を丸くしていた。
「そうか……。……お前でも気を遣うんだな」
「そりゃね」
言いながら相棒の隣に歩み寄り、同じ様にソファに座ろうとするところで、違う問いが飛んできた。
「ハクライ……キエラ殿から何か……大事な話はされなかったか?」
問いかける相棒の目をじっと見て、黒髪の男は隣に座った。見つめられている茶髪の方も、じっと相手を見て何か探っているような雰囲気だ。しばし見つめ合うようにしていた二人だったが、その一瞬の間を挟んで男は首を振った。
「ううん、特には」
「…………そうか……」
少しだけ不思議そうな顔をする相棒の様子は、正直珍しかった。いつものただ驚くような表情ではなく、どことなくその驚きの中に安堵したような、緊張のほぐれた空気が垣間見えた。そんな油断した表情の相棒は、いつもより空気が柔らかく見えた。
まじまじとその顔を見て顔を寄せる長髪の男に、寄せられた方は訝しげに眉を寄せた。
「……何だ?」
いつもの調子で問われて、長髪の男はにこやかに微笑んだ。
「ミズミは結婚って考えたことある?」
「なんだ藪から棒に……」
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