第32話


 相変わらずの唐突な発言に、問われた相棒は困惑気味に呟いていた。それには構わず相変わらずの調子で黒髪の男は尋ねる。

「ある?」

「…………ない」

 呆れて返せば、男は珍しく相棒に更に顔を寄せた。急な動きに目を丸くする茶髪の相棒に、黒髪の男は微笑んだ。

「じゃ、今後は考えといて」

「…………あ、ん? あ、ああ……」

 意味がわからず困惑する相棒にまた微笑んで、黒髪を揺らして立ち上がると、男はそのまま部屋を出ていった。部屋の主はそんな相棒の後ろ姿を見つめていたが、部屋に一人残されると目を細めて俯くように考え込んでいた。

「……相変わらず心音が読めない奴だな……。しかし……アイツにとって大事な話ではなかった……ということか……?」

 思わずそんな独り言が漏れていた。


「……やっぱり、まだまだ先かぁ……」

 相棒の部屋を出て扉を閉めて開口一番、そんな言葉が口をつく。天を仰ぐように上を向き、黒い前髪の下で切れ長な瞳を細めて男は微笑んだ。

「お互い長生きしないとなぁ」

 言いながら、男は静かに部屋の扉から離れていくのだった。



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