第15話

 その発言に、カラスはギクリ体を震わせ、王の側近である長身の男は黒髪を揺らして首を傾げた。

「あれ、ミズミはそいつ殺る気なの?」

「なっ……! ミズミ様、ウリュウ一族は貴方様に仕える一族ですぞ!」

 それぞれの反応だったが、王は薄っすらと笑って冷然と言い放った。

「従うか否かはヤツの判断、殺るか殺らないかは俺の判断だ」

 竹を割ったようなハッキリした物言いに、従者のカラスはうなだれるしかなかった。

「で、じーちゃん。そのウリュウってヤツはいつ来るの?」

 切れ長の瞳を丸くして長身の男が瞬きとともに尋ねると、カラスは思い出したように顔を上げ、指折り数えだした。

「確か、新たな王が決まってから十日後に参られるはずですから……」

「…………あれ……今日じゃない?」

 カラスの言葉に、同じ様に指折り数えていた男が首を傾げた時だ。ふわりと空間の空気が変わった。風が吹いたわけでもないのに、その空気に確かに何かが現れたのだ。その気配に気が付いたかのように、茶髪を揺らして闇族王は顔を上げ、従者と側近の背後に視線を向けた。王の首元の宝石は、その空気を察したかのようにゆらゆらと青い光を放ちだしていた。

「そう……新たな王がガイアサンジスに認められて、その魂に染められるまでが十日間……」

 唐突に声が響いた。その声に目を丸くする長身の男と年老いたカラスの背後に、空気がまるで水面のようにゆらゆらと揺らめくような歪み方をしだした。それはここの空間とは違う別の空間が、そこに隣接している証拠だ。

「新たな王が決まりし時、古の約束が動き出す……。『竜は王を守る』……」

 続く言葉の直後、その揺らめいた空間からふわりと風が吹いた。その風に気が付いて王の側近と従者が振り向く頃、王はその空間を睨んで視線を鋭くしていた。そんな三人の視線の先で風に誘われるように、その空間に緑色の細い線が現れて、それが膨らんで平面を描き、それが立体になるかのように緑色の何かが姿を現した。

 しゃがむ体制で片膝をつき跪くそれは、緑色の髪をした人に見えた。服装も深緑でそこから飛び出して折り曲げる白い腕は人にしては痩せ過ぎなほど細く、骨の形がよく見えた。緑の髪の下でうつむき頭を垂れる顔は、狭い額に閉じられた目、小さな鼻に口と地味な顔立ちだ。

「……闇族王スティラ様……。従者、ウリュウメイカ……只今参りました」

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