第16話


 その顔に薄っすらと笑みを浮かべるその姿は男のように見えたが、響く声は男にしては甲高く、何処か軽さのある声色だった。

 急に現れたその従者に、側近の男とカラスは目を丸くしていた。

「わー、すごい。急に現れたね」

「転送魔法ですじゃ。ウリュウ様にはこのくらい朝飯前、それほど腕前がすごいのです」

 彼らがそう驚くのも無理はない。闇族の大陸では法整備は勿論のこと、魔法文明もあまり発達していない。闇族王のミズミは魔法のような術を使うが、そんな人物は稀であるほどだ。そのくらいこの土地で魔法の技術に触れることは皆無に等しかった。

 感心する二人とは裏腹に、闇族王は無言で現れた新たな従者に近づいていた。男を真上から見ろせる距離まで近付いても、まだ俯いて顔をあげない細身の男に、王は冷たく言い放った。

「偽の忠誠などいらん」

 その言葉に細身の男は初めて顔を上げた。閉じられた瞳を開けばそれでも目は細く、深緑の瞳が王を見ていた。無表情で見上げる男に、王は瞳を細め、鼻で笑うようにして続けた。

「……この程度の演技で騙せるほど、この俺が愚かとでも思ったか?」

 その言葉に細身の男ではなく、カラスがギクリと身をこわばらせていた。

「さすがミズミ様……。王に仕える従者達が……自らの意思で仕えているわけではないことを見抜いておられたか……」

 思わず小声が漏れるカラスを、長身の男は横目で一瞬見、すぐにそれを細身の男に戻していた。一方で細身の男はカラスの態度とは真逆で、瞳を少し丸くして薄っすらと笑みを浮かべていた。

「へぇ……これでもボク、忠誠の呪い通り動いてみたんだけどな」

 そう言って急にすっくと立ち上がると、目の前の王にニコリと微笑んで目を細めた。立てば身長は王より少し低い程度、まさに小柄で華奢な男だ。男は嬉しそうに腰に手を当て、呑気に話し始めていた。

「いやぁ〜毎っ回毎回スティラ様は従いすりゃいいのかと思っていたけど、よかった、ボクの代の王様はそうじゃないみたいで〜。ボクだって無理矢理従うのは嫌でさぁ〜。適当に従うつもりで動いてみたけど、こうもあっさり見抜いてくれるなんて、嬉しいな。いやぁ、よかった。ボクのことをよくわかってくれる人みたいで〜」

 聞いてもいないのに多弁になる男に、王は呆れるようにため息をついていた。

「……変だ、こいつ……」

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