第6話

 


 三日経ち――やはり三度、カラスは焦っていた。

「はぁ……。本当にこれで大丈夫なんじゃろうか……」

 そう言って右へ左へ落ち着き無く歩き回る様子は、明らかに慌てていた。窓の外を見、城の入り口である門を見、そわそわと動き回っては頭を抱えていた。――そう、彼をこんなにも動揺させているのは、主である王が下した一つの命令が原因だった。

「王座の大会に参加した者全員だ。彼らにこの城に入る権利と、王と同等の権限を得るチャンスを与えよう」

 美しき闇族王は、そんな命令を下したのだ。

 いままでこんな命令を出した王など、当然いなかった。弱肉強食だけが唯一の法であり、歴代の王たちも皆、まさに命がけでこの闇族王の座につくのである。その王座を危ぶませるような命令など、考えられるはずもなかった。

「そんな無茶です、ミズミ様! 彼らは一度貴方様の座を狙っていた者たちですぞ! それこそ城内に入れれば貴方様に命の危険が……!」

 大会参加者は一度王座を狙っているものばかり。彼ら全員が現闇族王であるミズミの命を狙って当然である。それを危惧して年老いたカラスが忠告するが、王はニヤリと冷たい微笑を浮かべて言い放った。

「だからいいんじゃないか。殺す手間が省けて」

 冷然とそう言い放つ王に、この時ばかりは彼の正常さを疑った。――殺したいがために自分の安全すらも脅かす選択を迷いなく選ぶのだろうか、それとも殺しを楽しんでいるのだろうか、命がけの戦いを楽しみたいのだろうか――そんな考えが浮かんでは消え、闇族王に対して本気で狂気を覚えた。一体王は何を考えているのか……年老いたカラスには当然理解できなかった。

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